大切に呼ぶ
料理を机の上に並べる。
―――カチャリ
小さな音を立てて彼が部屋に入ってきた。
「お帰り」
「ただいま」
ふわりと笑う彼に、アタシは気恥ずかしくて視線を逸らした。
彼と暮らし始めて、未だ彼の優しい笑顔には慣れない。
彼が椅子を引き、アタシはそれに座る。
その後彼も席に着いた。
「いただきます」
二人で食事を始める。
「おいしい?」
「美味しいよ」
「ありがと」
会話が続かない。
今まで家で誰かと食事をしたことがなくて、どうしたらいいのかわからないからだ。
でも、その沈黙は決して苦しくなくて。
一緒にいれるだけで嬉しくて。
「リズ、どうしたんだい?」
「何がだ?」
「笑ってたから」
”でも、笑ってた方がかわいいよ”なんて付け加えて。
その彼らしい言葉にアタシは思わず笑う。
「ううん、なんでもないよ
ク ジ ャ 」
アタシは彼の名をゆっくりとかみしめるように呼んだ。
(共に居られる嬉しさを込め。)
(2013/08/14)
元拍手のおまけ。