昔昔なんて揶揄されそうな時代。
ある花畑の中心に、一人ぽっちのドラゴンがいた。
なぜならそのドラゴンは、―――
―――火を吹くことも
―――雷を呼ぶことも
―――風を起こすことでさえ、できなかったから。
彼に出来たのは命を与え花を咲かせるような、小さなことだけだった。
自身を慰めるために作った花畑。中心に横たわるドラゴンに、ある日一人の少女が近づいた。
―――”これ、あなたが作ったの?素敵ね”
笑顔の少女は、召喚士ではなかった。
言葉が分からなくても、彼にとってその笑顔は涙が出るほど嬉しかった。
「キュゥゥウウ」
―――”わ!くすぐったいよ!”
そうしてそれから何十年、ドラゴンは一人ぽっちじゃなくなった。
その月日は、人間にとっては一生であった。
一方で、幻獣にとってはあまりに一瞬のこと。
―――”あと何年あなたと会えるかしらねぇ”
明らかに年老いた様子の女に、擦り寄ったドラゴンは一つの呪いを掛けた。
命を繋ぐ人間の中、彼女の居場所がすぐ分かるように。
「キュゥゥ」
ばいばい。
彼の声に答えるものはもういない。
(2017/05/30)
ある花畑の中心に、一人ぽっちのドラゴンがいた。
プロローグ
なぜならそのドラゴンは、―――
―――火を吹くことも
―――雷を呼ぶことも
―――風を起こすことでさえ、できなかったから。
彼に出来たのは命を与え花を咲かせるような、小さなことだけだった。
自身を慰めるために作った花畑。中心に横たわるドラゴンに、ある日一人の少女が近づいた。
―――”これ、あなたが作ったの?素敵ね”
笑顔の少女は、召喚士ではなかった。
言葉が分からなくても、彼にとってその笑顔は涙が出るほど嬉しかった。
「キュゥゥウウ」
―――”わ!くすぐったいよ!”
そうしてそれから何十年、ドラゴンは一人ぽっちじゃなくなった。
その月日は、人間にとっては一生であった。
一方で、幻獣にとってはあまりに一瞬のこと。
―――”あと何年あなたと会えるかしらねぇ”
明らかに年老いた様子の女に、擦り寄ったドラゴンは一つの呪いを掛けた。
命を繋ぐ人間の中、彼女の居場所がすぐ分かるように。
「キュゥゥ」
ばいばい。
彼の声に答えるものはもういない。
(2017/05/30)