それまで笑っていた少女がふと表情を暗くしてクジャの頬に触れた。平素より白い彼の肌がいつもより白く見えたからの行動だった。
「どうなされたんですか、あまり無理をしないでくださいね」
心配げに投げかけられたクリスティアの言葉は、媚びも、怯えも含んではいなかった。
それは、クジャにとっては初めての響き。
「あ、ああ」
クジャは一人、自室でクリスティアに貰った花を眺めていた。何の変哲もないこの花が、魔法によって作り出されたものだと誰が気付くだろう。
花瓶に活けられたフリージアは花屋で買うそれと何も変わらない。
事実、出生以外なにも変わらないのだ。
「・・・・」
彼女の力は母方からの遺伝だという、本当か嘘かわからないおとぎ話。
「花を生み出すだけ、か」
花を出すだけなど、役立たずもいい所だ。
クリスティアから聞いた話を思い出し、クジャはつまらなそうに指先で花をはじいた。花瓶のふちを添ってくるりと一回転した花が、クジャの方を向いて止まる。
「最高だ・・・なんて素敵なんだ・・・」
クジャは強い執心を、彼女に向け始めていた。
彼女の力は役立たずだが、それは間違いなく幻獣の力だった。召喚士ではないその力は、ガーランドに一泡吹かせるには十分なものだ。もしも、バハムートのような力を手に入れられたのなら。
ガーランドの甘く見た存在が、彼を滅ぼすなんてなんて素晴らしいショーだろう。
幻獣の力を手に入れる。その為にも、クリスティアという存在は重要なのだ。
さて、そのためにはどうするべきか。
革張りの椅子の上、クジャは足を組み肘をついた。目を閉じて、彼女の顔を思い浮かべる。黒い髪に同じ色の瞳、美には厳しいクジャから見ても美しい顔立ちをしている少女。
幸い自分には心を許しているようだし、どうにでもなると考えていた。
* * *
「私、近々旅にでるんです」
いつもと同じ笑顔のクリスティアは、あっさりとそう言ってのけた。「この話店長しかしらないんです」なんて、照れくさそうに続けたクリスティアに、動揺を悟られぬようクジャは余裕ぶった笑みを浮かべた。
「へえ、どうしてだい?」
「私トレノしか知らないんです
だから、いろいろなところ行ってみたくて―――」
そこまで言うと、ふとクリスティアが遠い目をした。クジャには、彼女が何を見ているのか分からない。
「―――それに、呼ばれてる気がする」
「呼ばれている?」
「はい。ずっと、探している人がいる気がするんです
不思議ですよね」
クリスティアは恥ずかしそうに視線を下に動かした。彼女の視線が外れると同時に、クジャは苦々しく表情を変える。
このタイミングで彼女が離れていくのは、非常にうまくない展開であった。なぜなら、クジャは、彼女とはまた別の、幻獣を持った召喚士の少女から幻獣を手に入れなければいけなかったのだ。その為にトレノを離れている間、彼女の行方が分からなくなってしまうのは非常に面倒なことになる。
そしてそんな打算とは別に、ほんの少しだけ彼女を手放したくないと言う気持ちがよぎった。
「僕がまさかガイアの人間に、ね」言って頭を軽く振ったクジャに、クリスティアが何か言ったかと尋ねた。
「いや、ただ危ないんじゃないかと思ってね」
「ふふっ、ありがとうございます
でも私魔法も得意なんですよ」
クジャの気持ちなどつゆ知らず、得意げにクリスティアは笑った。
(2017/06/03)
「どうなされたんですか、あまり無理をしないでくださいね」
心配げに投げかけられたクリスティアの言葉は、媚びも、怯えも含んではいなかった。
それは、クジャにとっては初めての響き。
「あ、ああ」
01.僕の心がそう言った
クジャは一人、自室でクリスティアに貰った花を眺めていた。何の変哲もないこの花が、魔法によって作り出されたものだと誰が気付くだろう。
花瓶に活けられたフリージアは花屋で買うそれと何も変わらない。
事実、出生以外なにも変わらないのだ。
「・・・・」
彼女の力は母方からの遺伝だという、本当か嘘かわからないおとぎ話。
「花を生み出すだけ、か」
花を出すだけなど、役立たずもいい所だ。
クリスティアから聞いた話を思い出し、クジャはつまらなそうに指先で花をはじいた。花瓶のふちを添ってくるりと一回転した花が、クジャの方を向いて止まる。
「最高だ・・・なんて素敵なんだ・・・」
クジャは強い執心を、彼女に向け始めていた。
彼女の力は役立たずだが、それは間違いなく幻獣の力だった。召喚士ではないその力は、ガーランドに一泡吹かせるには十分なものだ。もしも、バハムートのような力を手に入れられたのなら。
ガーランドの甘く見た存在が、彼を滅ぼすなんてなんて素晴らしいショーだろう。
幻獣の力を手に入れる。その為にも、クリスティアという存在は重要なのだ。
さて、そのためにはどうするべきか。
革張りの椅子の上、クジャは足を組み肘をついた。目を閉じて、彼女の顔を思い浮かべる。黒い髪に同じ色の瞳、美には厳しいクジャから見ても美しい顔立ちをしている少女。
幸い自分には心を許しているようだし、どうにでもなると考えていた。
* * *
「私、近々旅にでるんです」
いつもと同じ笑顔のクリスティアは、あっさりとそう言ってのけた。「この話店長しかしらないんです」なんて、照れくさそうに続けたクリスティアに、動揺を悟られぬようクジャは余裕ぶった笑みを浮かべた。
「へえ、どうしてだい?」
「私トレノしか知らないんです
だから、いろいろなところ行ってみたくて―――」
そこまで言うと、ふとクリスティアが遠い目をした。クジャには、彼女が何を見ているのか分からない。
「―――それに、呼ばれてる気がする」
「呼ばれている?」
「はい。ずっと、探している人がいる気がするんです
不思議ですよね」
クリスティアは恥ずかしそうに視線を下に動かした。彼女の視線が外れると同時に、クジャは苦々しく表情を変える。
このタイミングで彼女が離れていくのは、非常にうまくない展開であった。なぜなら、クジャは、彼女とはまた別の、幻獣を持った召喚士の少女から幻獣を手に入れなければいけなかったのだ。その為にトレノを離れている間、彼女の行方が分からなくなってしまうのは非常に面倒なことになる。
そしてそんな打算とは別に、ほんの少しだけ彼女を手放したくないと言う気持ちがよぎった。
「僕がまさかガイアの人間に、ね」言って頭を軽く振ったクジャに、クリスティアが何か言ったかと尋ねた。
「いや、ただ危ないんじゃないかと思ってね」
「ふふっ、ありがとうございます
でも私魔法も得意なんですよ」
クジャの気持ちなどつゆ知らず、得意げにクリスティアは笑った。
(2017/06/03)