Eternal Oath

これは本当に偶然であるのだが、クジャはかの幻獣と同じ方法を選んだ。


「今までありがとう
気をつけるんだよ」
「はい」

「これは旅立つクリスティア
僕からおまもり」
「わあ、ありがとうございます!」

旅立ちの日に、クジャはクリスティアに青い石のペンダントを一つ送った。それは魔術の込められたクリスタルの欠片で、クジャにクリスティアの居場所を教えるものだった。
彼女がどこに居てもわかるように、自らの力の断片を彼女に渡したのである。

02.ペンダントは青色


クリスティアはアレクサンドリアに居た。巨大な剣を頂く城の城下町だ。彼女がまず最初にここを訪れたのには理由がある。ひとつは、トレノからは交通の便が良い場所だったこと。そしてもう一つは、今日ここで開かれる芝居が目当てであった。
それは、エイヴォン卿の代表作ともいえる”君の小鳥になりたい”と言う、一国の姫と平民の悲恋を描いた作品である。トレノでも何回か上演されているその作品を、クリスティアは気に入っていた。


そして、クリスティアは観光もそこそこに、城内に設置された劇場へと足を踏み入れる。


「うわぁ、いい席」
彼女が思わず感嘆の声を上げたのは、チケットの番号が最前列と言う最もいい場所であったからだ。
今日演じる劇団はタンタラス。トレノで一度見かけたが、皆鍛えているのかアクションの動きがとても良かった印象がある。

舞台は、コーネリア姫が父親のレア王に連れ戻されたと聞いたマーカスが、王に刃を向けるところから始まった。マーカスの仲間であるブランクの裏切り、チャンバラに独白と舞台はめまぐるしく、物語はクライマックスへ向かっていく。
この物語クライマックスは、マーカスがレア王を殺そうと剣を振り上げ、王をかばったコーネリアを刺してしまうという悲劇の筋書き。結末を知ってはいるが、役者たちの名演にクリスティアは思わず身を乗り出した。



「ごめんなさいー!!!」


突然、彼女の目の前を男の子が二人走り去る。


「?

―――っ、ペンダント!」


その拍子、ちょうど身を乗り出していたクリスティアの、首にかかったペンダントが少年の服に引っかかった。「ただ見は許さんぞ!」―――少年の後ろからかかった声を聞くと同時に、クリスティアは席から立ちあがって少年を追いかけ始める。もしも、彼が会場から追い出されてしまったらペンダントを取り返せなくなってしまう。
「待って!」
高く響く女性の声。追手が増えたことに、少年二人はぎくりと体を震わせて、振り返りもせず互いを見ると「いっせーの!」の合図で二手に分かれた。

一人は客席中央へ、もう一人は舞台の方へ。

クリスティアはまっすぐ舞台へ向かった。目立つとんがり帽子の少年の青い服に、これまた青いクリスタルがゆらゆらと揺れている。
「待ってって!」
息も絶え絶えクリスティアが言う。舞台に上ってしまうことも厭わず走った少年は、追いつかれると思ったのだろう、振り返ると両手をクリスティアに向けた。

「ファイア!」
「シェル!」

向かってきた火の玉をとっさに魔法で防ごうとするが、急いで出されたそれは勢い足らず。舞台上で死んだ演技を続けるコーネリアに落っこちた。
ぽうと燃える火が、白いフードに広がった。

「あっつぅい!」
「―――ったぁ」

コーネリアの勢いにおされたクリスティアは尻餅をついた。

「あの、お姉ちゃん・・・大丈夫?
僕驚いちゃって―――ごめんなさい」
そんなクリスティアに件の少年が恐る恐るといった様子で話しかける。魔法をかけた相手が、兵士ではなかったことに驚いたのだ。

「うん大丈夫
私こそ驚かせてごめんね

ペンダント引っかかっちゃって」
言いながらクリスティアは、ペンダントを少年から返してもらう。せっかくクジャから貰ったものだし大切にしたい。
今度は外れないようにしっかりと金具を止めて、クリスティアは安心したようにクリスタルを握りしめた。
そんな彼女をみて、少年もようやく落ち着いたらしくぺこりとお辞儀を一つした。



「―――え?」

―――がくん
その時、何の前触れもなく舞台が揺れた。



「出発しんこー!」


野太い声に合わせ、揺れは大きくなってゆく。徐々に小さくなっていく客席が、劇場艇が浮上していることをクリスティア達に教える。


「え?何これ?」

唖然と客席の方を見たクリスティアと少年の前に、剣をかまえた兵士が躍り出る。

「姫さま、覚悟なされい~っ!」
「わたくしのことを追いかけないでください!」

どうやら彼女たちではなく、コーネリアを演じた女性に用があるようだ。しかしながら、彼女の前にはクリスティア達がいた。
仕方なしに杖をかまえた少年と、魔法の準備を始めたクリスティア。そんな二人に加勢するように、ジタンが戦闘に加わった。


これが、大冒険の始まりなのだとクリスティアはまだ知らない。


(2017/06/06)