Eternal Oath

「大丈夫?・・・じゃないよね」

 今度はクリスティアが少女を揺り起こした。そんな彼女の体には無数の蔦。少女もまたけだるさを感じ、視線を下へ這わすと蔦が見えた。

 クリスティアの後ろには花を模したようなモンスター―――おそらく、ここの主であろうそれ。少女を庇うように間に立つ彼女には、少女よりも多い蔦が這っていた。

「きっと誰か来てくれるから、それまで頑張ろう」
「え、ええ」

 クリスティアと、そう名乗った少女はそう言って無理やり笑顔を作った。

 そして、その言葉通り助けが入ったのは、それから一時間ほどが経ったあとのことだった。クリスティアは、助け出されたときにはすでに意識を保っていなかった。森の外で、少女が語ったところによると、彼女は怯えて動けない少女の代わりにずっと白魔法を唱え、励まし続けたのだという。

04.魔の森の奥深く


「姫様の命の恩人ですか
―――ならば、城へ戻られた暁にはそれなりの褒美をださねばなりませんな!」
「おい、おっさん大声だすなよ」
「なんだと!」
「・・・うん?」

 ほら起きちまった、そうジタンはクリスティアを指差した。口には出さないが同意しているのだろう、少女もまた避難の色を滲ませて「スタイナー」と彼の名を呼んだ。まずいと感じたスタイナーは、少女の呼びかけに敬礼をすると、所在なさげに視線をクリスティアに向けた。そして、ビビはスタイナーの声に驚きずれたとんがり帽子を、元の位置へとかぶり直しクリスティアを覗き込んだ。

「大丈夫?お姉ちゃん」
「・・・ここは?」

 あたりは開けた土地で、森の外であることは明らかであった。クリスティアは自分を覗き込む四人の顔をぼんやりと眺め、まだはっきりしない頭で「誰?」と尋ねた。ジタン達三人がそれぞれ名乗りをあげ、最後に少女の番。
 「わたくしはガーネット・ティル・アレクサンドロス17世です」と。告げられた名前にクリスティアは一瞬で正気を取り戻し、平伏する。ガーネットと言えば、アレクサンドリアで名高い姫の名であった。

「ガーネット姫・・・!?すみませんでした!
私全然気づかなくて」
「いいのです
わたくしはあなたに助けられました」
 クリスティアがいなければ、あのまま養分を吸われて死んでいたのかもしれない。

 一方でクリスティアは焦っていた。お姫様だなんて全然気づいていなかった。お姫様に対するのはあまりにもふさわしくない言葉遣いや態度で話しかけてしまっていたと、後悔しても後の祭で。
 しかし、ガーネットはそんなクリスティアの手をとって優し気に微笑んだ。

「ガーネット姫?」
「どうか、ガーネットと呼んでくれませんか?」
 ガーネットにとって同世代の者と言葉を交わす機会は少ない。クリスティアやジタンの態度は新鮮だった。
「わかりまし・・・分かった」
 そんな彼女の想いを察し、クリスティアもまた笑ってその手を握り返した。




 一晩休んで、翌日彼等は霧を抜けるべく出発をする。
 先頭を歩くジタンが振り返った。補助魔法が得意だという彼女は、ビビやガーネットと同じ位置にいる。「それにしても」と地図片手に先頭を歩くジタンが振り返った。

「あんた白魔法も黒魔法も使えるんだな」

 助かるぜと彼は笑う。同じく先頭を歩くスタイナーも素晴らしいと声を上げた。その際やれ声がでかいだの、お前とは違うだのとはじまりかける喧嘩。
 苦笑い半分に、クリスティアは空気を払拭すべく声を上げた。

「練習したの、旅するのに必要だから
ほら、外って危ないでしょ?モンスターとか」
 さすがに霧の下まで来るつもりはなかったのだけれど、と彼女。

「それでか」
「はい」
 傷ついた体を治せるように白魔法。そして、モンスターから逃げられるようスロウやストップの黒魔法。
「でも、攻撃魔法までは時間がなくて覚えきれなくて」
 それでも十分にアレクサンドリアまではやってこれたのだと締めくくった。

 回復魔法はガーネットも使えるし黒魔法ならばビビの方が専門だが、スロウなどの時間を操る魔法は二人とも使えない。三人の魔法のサポートを受け、ジタンとスタイナーは危なげなくモンスターを倒し続け数時間。漸く霧の上に続くという洞窟が見えて来た。


(2017/06/19)