青空、みかづきひとつ
彼女にとって彼は、憧れの男の人程度の認識でしかなかった。前を歩く白くて大きな背中だったり、大人びたオールバック、いつも前だけを見ている目も全部彼女にないもので、手に入れたいと思っていた。
「ほんとに?」
その話を聞いた時、まず、信じられないとリズは思った。なぜならば、彼女にとっての彼は優しくて頼りがいのある青年であり、曲がったことなど嫌いそうに見えたからだ。しかし、その一方でひどく納得をした。ガーデンでSeeDの候補生をしていたという彼がこんな辺境の地で傭兵などをしている、その理由をずっと彼女は疑問に思っていたのだ。
アルティミシアの騒乱―――一年前に起こった、ガルバディアを乗っ取った魔女の名前を冠しこう呼ばれている、その争いで魔女の騎士を名乗った近衛兵が居たという、それが目の前の彼なのだ。
「ああ」
それ以上の言葉はいらないと思った。苦々しく彼は頷く、それだけで充分だと、リズは答えた。
「魔女が、好き、だったの?」
確かめたいけれど確かめたくない、背反する思いが声を小さく押しとどめるが、彼にはしっかり聞こえていたらしく首を静かに横に降られる。
「帰るぞ」
途端、手を引かれる。気づけば辺りは暗く、遠くモンスターの声がした。真面目な彼は私が危険に晒されるのをよしとはしないだろう、彼はリズの町の傭兵なのだから。町人ーーー私が傷付くのは彼にとって仕事をしていないのと同義だと思っているのだろう、やはり前を向いたままの彼を盗み見思う。きゅう、と強くその手を握ると、痛いと彼が言う。
「ねえ、サイファー」
小さい声で言った。
「後悔しているの?」
エリートであろうSeeDへの道も、立身出世もここには、何も。
「後悔はしてねぇ」
「わ」撫ぜられる感覚に思わず声をあげる、子供じゃない、サイファーとは三歳しか離れてないもんと主張すると、大人はそんな言い方しねぇよと笑われてしまう。
空色の瞳がこちらを捉えて三日月になっていた。
リズ。と、低い声が彼女を呼ぶ。
「サイファー、好き」
その三日月を、やっぱり欲しいとリズはおもった。
(2016/09/11)
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「俺のそばを離れるな」
hillyさんよりいただきました