過去に縛られた二人
気配を殺せば、伸ばした手に蝶が止まる。それは僕がライフルと言う武器を選んだ時から、癖の一つになった。そして、僕の選んだ狙撃手と言う職業は思わぬ大舞台へ僕を押し上げる。
育ての親であるママ先生、いや、魔女イデアの暗殺。
運命とでも言うのだろう、バラムとの合同任務だと、学園長から紹介されたのは嘗ての家族だった。成長しても面影を残す各々の姿が、孤児院の記憶を呼び戻す。もっとも、彼らは僕の事など忘れてしまっていたけれど。
そんな彼らに紛れて見知らぬ少女が二人。二人供傭兵と言うよりタレントだと言われた方が納得できる華やかな顔立ちをしていた。
「BANG!バラムのイナカ者諸君、よろしく」
彼らと、彼女らを尻目に、僕は一世一代の大芝居に打って出る。
手も表情も大げさに、セリフは派手にかっこよく、ワイルドさの中にちょっとワルを織り交ぜて、この瞬間僕は幼き日の自分を捨てて、魔女を暗殺する狙撃手になるんだ。
そして彼らはそんな僕を支えるパートナー、そう言い聞かせ一人一人をじっくり見る。彼らの眼にははっきりと猜疑の心が写っていた。僕だってこんなやつが仕事相手だったらきっとこんな目をするけれど、その心配は杞憂に終わるから心配しないで、そう心の中で彼らに言った。
だって、僕はガルバディア一の名狙撃手なんだから。
「さ~って、デリング・シティまでのパーティを決めるってことで」
モテモテ名狙撃手の側にはかわいい女の子が必要だろ?僕は僕を引き立たせるパートナーを選び出した。
ショートカットの明るい女の子、そして黒髪のモデルのような女の子。金髪の美人な彼女は、僕の側に置くにはちょっと違う気がした。断じて、怖いわけじゃない。茶色で長い髪の彼女は、何も移さない目も、暗いままの表情も、今の僕には似合わない。絶対に似合わないんだ。
この子、いいの?幼い僕の声がした。いいんだよ、これで。これは仕事で、僕は魔女を暗殺に行く狙撃手なんだから。
魔女を殺す、―――別人になると決めたんだ。
「こんなもんかな?」
僕の両手には茶髪の二人。
小さな僕が、それでいいんだよって、そう笑った。
(2020/05/02)
元拍手のおまけ。