Eternal Oath

サイファーが16の年だった。その日、草木も眠るなんて形容されそうな時間帯にサイファーは訓練所を訪れた。寝つけないからとか、もうすぐSeeD試験だからとかそんな程度の理由である。

03.月下に咲いた


サイファーは訓練所の異変に気づいた。
深夜のモンスターが活性化する時間帯だと言うのに、モンスターがいないのだ。やる気のガンブレードが空回りし、苛立たしくて闇雲に振り回す。そうして、やっとぽろぽろとモンスターが現れはじめた。

そして、戦うこと数十分、彼は訓練所の最奥へとたどり着く。過去最短記録であり、如何にモンスターが少ないかを物語っていた。


―――、!
「(なんだ?)」

かすかに聞こえたのは魔法の音?
違和感を頼りにサイファーは、訓練所をひた走る。


そうしてたどり着いた、訓練所の片隅で、一人の少女が戦っていた。
深夜だから目撃したのは彼だけだっただろう、いつからそうしていたのか彼女の周りには多数のモンスターの死骸があった。

彼の目の前、
「ったぁ!」
声を上げモンスターを切る。よろめくモンスターにいつ唱えていたのか魔法が炸裂した。
戦いなれた姿、まるで正規のSeeDのようだとサイファーは思う。この一連の戦いを見ただけで、彼女が自分よりも強いことに気づいてしまった。握りしめたガンブレードはひやりと冷たい。


「サイファー?」
ひと段落付いたのだろう、上下を繰り返す肩ごとこちらを向いた。その人物を彼は知っていた。
アーリアセッター。彼より二つほど年下のガーデン生。いつも喧嘩を止めにくる彼女のことを、サイファーは面倒以上も以下も思ったことは無かった。


「ア、ルマシーくん」
上がった息でアーリアが言う。いつだってすました表情だったその顔は今にも泣き出しそうだった。

彼は舌打ちをひとつ、自分よりも強いやつがそんな目をする事はゆるせない。

「くそっ、そんな顔してんじゃねぇよ」
言いながら彼女の頭を押さえつける。
振り払おうと彼女が払った手は障害にもなりはしない。

弱い力、小さい背、こんな奴に俺はおとるのか。絶対にこいつよりも強くなると彼は自分に誓う。


「・・・」
泣くのかとおもった。
アーリアが弱く震えた声で、何かを言った。しかし、サイファーは頭を抑えるのをやめはしない。

途端にぱっと、アーリアは体ごとサイファーから距離を取った。
髪が乱れるなんて、その言葉が嘘だってことはすぐにわかる。ずっと戦っていた彼女の髪なんか最初からぐちゃぐちゃだ。


「ねえ、
サイファー

ありがとうね」
初めてしっかりと呼ばれた名前に、思わず目を見開いた。ゆっくりとアーリアの顔が上がる、―――花がほころぶような、なんて形容されそうな笑顔であった。


信じられない思いで、サイファーは何度も瞬いた。見ほれた、なんて絶対に認めやしないだろう。
そして三度目の瞬きに、その笑みは消え去った。

そしていつもの澄まし顔。




「今日はもう寝ろ」

もう一度、残念だ。そんな事言えやしないし、思ってなどいないとサイファーは心の中で言い訳をした。




(2014/12/25)
(2016/08/25修正)
(2023/11/28修正2)