多分、この時に始まっていた。
「(なんでだ?)」
サイファーの目の前にはアーリアがおり、幼少クラスの実技試験をうけている。やはり誰よりも戦いなれているし、強い。
顎に手を当ててサイファーは思案する。力も背の高さも全部自分の方が上だ。純粋な身体検査の結果では何一つ彼女に負ける要素はなかった。
「経験、か?」
その位しか思い浮かばない、ガーデンと言えども幼少クラスで実戦を行うことは少ないからだ。
ならば、俺も勝てる。きっと彼女より強くならねば何も変わらないから。
戻した視線の先、あやつり人形のように軽やかに、アーリアが戦っている。
「あいつ、可愛いよなぁ」
ぼうと眺めながら出てしまった言葉に、はっと口を抑える。そろりと辺りを流し見て、大丈夫、人はいないと安堵する。
そして幾分か間を開けて、ライブラと、サイファーの声がした。
「アーリア=セッター
14歳、バラムガーデン年少クラス」
知っていると言いたいような情報だけが溢れていた。そもそもこの魔法は人の過去や境遇を教えるものではない。知りたいならば、聞き出すしかないのだ。
サイファーはっちと舌打ち一つ。
どうして彼女はこんなにも戦いなれているのかを。
あの時何が悲しくて、何がありがとうだったのか。
全部を彼は知りたいと思った。
やがて、試験を通過したらしいアーリアが剣をしまう。周りでは彼女の級友たちが一喜一憂しており対照的に見えた。この試験を経てやっと彼女たちはSeeD候補生となる、言わばスタートラインなのだ。
次アーリアに会ったら、やるじゃねぇかと声を掛けながら彼女の頭をぐしゃぐしゃにしてやろう。思いながらサイファーは右手を見て笑う。
きっとアーリアは撫ぜられた髪を撫で付けながら困ったように眉根を寄せ、ありがとうと言うのだろうと自然に想像できた。
「やあ、サイファー」
いつ近づいたのか、物思いにふけるサイファーに先ほど雑魚と評したSeeDが話しかけてきた。アーリアたちよりも先に彼は解散となったのだろう。迷惑そうに舌打ちしたサイファーに構うことなく彼はサイファーにの隣に立つ。
「いや、彼女はすごいよアーリア=セッターはさ」
プロから見てもそうなのか。
まあそうだよな。一人納得し、サイファーは口角を上げた。
それを自分への好意だと勘違いし、SeeDは言葉を続ける。
「これでスコール、サイファーコンビにくわえて、彼女も候補生か
俺も一層頑張らなくちゃな」
危ない危ないとごちながら、んーと軽く声を上げて体を伸ばす、彼は試験の補佐で気を張りっぱなしだったのだ。
「さっさと帰りやがれ」、―――サイファーがいう前に彼は背を向け寮への道を歩き出した。
***
「サイファー?」
SeeDを追っていたサイファーの目線が、くるりと反転して、少女の姿を捉えた。至極不可思議そうな目でこちらを見やると、こてんと首をかしげた。
「どうしてここに?」言葉にせずとも充分伝わる。
ああ、そうだ。
おもむろに立ち上がると、サイファーは彼女の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
するとサイファーの想像通り髪を撫ぜつけると、困惑したように眉根を寄せて、ありがとうと消えるような声で言った。
それが面白く、愉快で、そして非常に満足だとサイファーは、もう一度彼女の頭を一撫でした。
「(ああ、―――)」
「なに、するの」
「やったじゃねぇか」
笑って言えば、軽く唇をアーリアは噛んだ。
「笑えよ」
こつんと額を軽くつつくと、漸く少しだけ口角を上げた。
もっと喜べよなんて、言えなかった。
(2014/12/25)
(2016/09/18修正)
(2023/11/28修正2)
加筆分
04.伸ばした手のひら
「(なんでだ?)」
サイファーの目の前にはアーリアがおり、幼少クラスの実技試験をうけている。やはり誰よりも戦いなれているし、強い。
顎に手を当ててサイファーは思案する。力も背の高さも全部自分の方が上だ。純粋な身体検査の結果では何一つ彼女に負ける要素はなかった。
「経験、か?」
その位しか思い浮かばない、ガーデンと言えども幼少クラスで実戦を行うことは少ないからだ。
ならば、俺も勝てる。きっと彼女より強くならねば何も変わらないから。
戻した視線の先、あやつり人形のように軽やかに、アーリアが戦っている。
「あいつ、可愛いよなぁ」
ぼうと眺めながら出てしまった言葉に、はっと口を抑える。そろりと辺りを流し見て、大丈夫、人はいないと安堵する。
そして幾分か間を開けて、ライブラと、サイファーの声がした。
「アーリア=セッター
14歳、バラムガーデン年少クラス」
知っていると言いたいような情報だけが溢れていた。そもそもこの魔法は人の過去や境遇を教えるものではない。知りたいならば、聞き出すしかないのだ。
サイファーはっちと舌打ち一つ。
どうして彼女はこんなにも戦いなれているのかを。
あの時何が悲しくて、何がありがとうだったのか。
全部を彼は知りたいと思った。
やがて、試験を通過したらしいアーリアが剣をしまう。周りでは彼女の級友たちが一喜一憂しており対照的に見えた。この試験を経てやっと彼女たちはSeeD候補生となる、言わばスタートラインなのだ。
次アーリアに会ったら、やるじゃねぇかと声を掛けながら彼女の頭をぐしゃぐしゃにしてやろう。思いながらサイファーは右手を見て笑う。
きっとアーリアは撫ぜられた髪を撫で付けながら困ったように眉根を寄せ、ありがとうと言うのだろうと自然に想像できた。
「やあ、サイファー」
いつ近づいたのか、物思いにふけるサイファーに先ほど雑魚と評したSeeDが話しかけてきた。アーリアたちよりも先に彼は解散となったのだろう。迷惑そうに舌打ちしたサイファーに構うことなく彼はサイファーにの隣に立つ。
「いや、彼女はすごいよアーリア=セッターはさ」
プロから見てもそうなのか。
まあそうだよな。一人納得し、サイファーは口角を上げた。
それを自分への好意だと勘違いし、SeeDは言葉を続ける。
「これでスコール、サイファーコンビにくわえて、彼女も候補生か
俺も一層頑張らなくちゃな」
危ない危ないとごちながら、んーと軽く声を上げて体を伸ばす、彼は試験の補佐で気を張りっぱなしだったのだ。
「さっさと帰りやがれ」、―――サイファーがいう前に彼は背を向け寮への道を歩き出した。
***
「サイファー?」
SeeDを追っていたサイファーの目線が、くるりと反転して、少女の姿を捉えた。至極不可思議そうな目でこちらを見やると、こてんと首をかしげた。
「どうしてここに?」言葉にせずとも充分伝わる。
ああ、そうだ。
おもむろに立ち上がると、サイファーは彼女の頭をぐしゃぐしゃとかき混ぜた。
するとサイファーの想像通り髪を撫ぜつけると、困惑したように眉根を寄せて、ありがとうと消えるような声で言った。
それが面白く、愉快で、そして非常に満足だとサイファーは、もう一度彼女の頭を一撫でした。
「(ああ、―――)」
「なに、するの」
「やったじゃねぇか」
笑って言えば、軽く唇をアーリアは噛んだ。
「笑えよ」
こつんと額を軽くつつくと、漸く少しだけ口角を上げた。
もっと喜べよなんて、言えなかった。
(2014/12/25)
(2016/09/18修正)
(2023/11/28修正2)
加筆分