本格的にガーデンでの傭兵としての勉強が始まった。アーリアが心底驚いたのは年少クラスとはガラリと変わった授業内容でも、ましてやSeeDになると同時に教師となった若い教科担当の教師でもない。
あのトラブルメーカーであるサイファーとスコールの二人が自分よりも上の学年だと言うことだった。
学年が違えば授業も練習も別々の場所になるので、これまで続いていた腐れ縁のようなものもこれで終わりのはずであった。
「アーリア!ちょっと来て!」
が、現実とはなかなか奇なるものでして。
使い手の少ないガンブレードを互いに構え殺気を浮かべている二人の間に、一人の少女が割り込んだ。その人物を見てサイファーは舌打ちをした。
「スコール!サイファーも!やめて!」
「セッター!!
邪魔するんじゃねえ!!」
サイファーはスコールの名を先に呼んだアーリアの背に怒鳴り声を浴びせかけた。―――くそ、気に入らない。
ゆっくりと振り返ったアーリアの視線が右に二秒、左に三秒寄り道をしてからサイファーを捉えた。
それも気にくわず、サイファーがにぎりしめたガンブレードがぎりりと鳴った。
「こんな所で喧嘩される方がよっぽど邪魔だよ」
「っち!」
それは正論だったが、それ故にサイファーの心を波立たせた。
そんなサイファーの様子に話しても無駄と感じたのか、アーリアはスコールを振り向き白い指で彼の服に手をかけ―――「終わりにして保健室行こ?」そう小首を傾げてスコールの腕を引っ張った。
――――今日は本当に全てが不愉快だ。
「くそ、気に入らねぇ!!
行くぞ!セッター!」
サイファーはアーリアのスコールを掴んだ手とは逆の腕を掴んで保健室への道を進みはじめる。また喧嘩をしないように見張るためアーリアが保健室まで付き添うのはいつものことであるが、サイファーが率先して保健室へと向かうのは初めてのことだ。
「めずらしいね」なんて言いながら、アーリアが掴まれたその手を振り払う。
振り払われた自身の手と、スコールから離されたアーリアの手、交互に見てサイファーは小さく鼻を鳴らした。
* * *
「またかい」
保健室で三人を迎えたのはカドワキのそんな言葉だった。
「スコールはそこに座って。サイファーは・・・」
サイファーとスコールが一瞬目を合わせて殺気立つ。待つのは構わねぇがこいつの後は嫌だ。
そんな二人にカドワキは深いため息を一つして、無言で立っていたアーリアを向く。
「アーリア手当を頼んでもいいかい」
「・・・はい」
アーリアは仕方がないとでも言いそうな感じで頷いた。
まあ、いいだろう。心の中でそう呟いたサイファーは彼女の前の椅子に腰掛けて、怪我をした腕を差し出す。
そしてその対面にアーリアが腰掛けた。
「だから、喧嘩はやめなよ」
「うるせぇ」
短く言葉を交わしながらも、手際は良く、視線はまっすぐと腕の傷に向いていてサイファーと視線を合わせることは無い。
眉間に皺を寄せ、サイファーはそれを見た。アーリアの表情は無表情だった。
あと少し、包帯を巻き終われば。
「終わったよ」声とともに、包帯を切り、しっかりと止めた。そして、再度立ち上がったアーリアの視線はこちらではなく未だ手当をしているスコールへ。
”俺を見ろよ”なんて言えなかった。
「アーリア」
代わりに手を伸ばし、アーリアの手を掴む。殆ど無意識の行動にサイファー自身驚きながら、後ろ姿に声を投げかけた。
大きな緑の瞳をもう一回り大きくして、彼女の視線がサイファーを射抜く。それを満足だと、サイファーの上がった口角より臨む白い歯が物語った。
その視線を、表情を―――手に入らないから手に入れたいと思った。
それはアーリアがこちらに来て2年が立った日の事。
(2014/12/25)
(2016/12/13修正)
(2023/11/28修正2)
あのトラブルメーカーであるサイファーとスコールの二人が自分よりも上の学年だと言うことだった。
学年が違えば授業も練習も別々の場所になるので、これまで続いていた腐れ縁のようなものもこれで終わりのはずであった。
「アーリア!ちょっと来て!」
が、現実とはなかなか奇なるものでして。
05.宝箱に押し込んで
使い手の少ないガンブレードを互いに構え殺気を浮かべている二人の間に、一人の少女が割り込んだ。その人物を見てサイファーは舌打ちをした。
「スコール!サイファーも!やめて!」
「セッター!!
邪魔するんじゃねえ!!」
サイファーはスコールの名を先に呼んだアーリアの背に怒鳴り声を浴びせかけた。―――くそ、気に入らない。
ゆっくりと振り返ったアーリアの視線が右に二秒、左に三秒寄り道をしてからサイファーを捉えた。
それも気にくわず、サイファーがにぎりしめたガンブレードがぎりりと鳴った。
「こんな所で喧嘩される方がよっぽど邪魔だよ」
「っち!」
それは正論だったが、それ故にサイファーの心を波立たせた。
そんなサイファーの様子に話しても無駄と感じたのか、アーリアはスコールを振り向き白い指で彼の服に手をかけ―――「終わりにして保健室行こ?」そう小首を傾げてスコールの腕を引っ張った。
――――今日は本当に全てが不愉快だ。
「くそ、気に入らねぇ!!
行くぞ!セッター!」
サイファーはアーリアのスコールを掴んだ手とは逆の腕を掴んで保健室への道を進みはじめる。また喧嘩をしないように見張るためアーリアが保健室まで付き添うのはいつものことであるが、サイファーが率先して保健室へと向かうのは初めてのことだ。
「めずらしいね」なんて言いながら、アーリアが掴まれたその手を振り払う。
振り払われた自身の手と、スコールから離されたアーリアの手、交互に見てサイファーは小さく鼻を鳴らした。
* * *
「またかい」
保健室で三人を迎えたのはカドワキのそんな言葉だった。
「スコールはそこに座って。サイファーは・・・」
サイファーとスコールが一瞬目を合わせて殺気立つ。待つのは構わねぇがこいつの後は嫌だ。
そんな二人にカドワキは深いため息を一つして、無言で立っていたアーリアを向く。
「アーリア手当を頼んでもいいかい」
「・・・はい」
アーリアは仕方がないとでも言いそうな感じで頷いた。
まあ、いいだろう。心の中でそう呟いたサイファーは彼女の前の椅子に腰掛けて、怪我をした腕を差し出す。
そしてその対面にアーリアが腰掛けた。
「だから、喧嘩はやめなよ」
「うるせぇ」
短く言葉を交わしながらも、手際は良く、視線はまっすぐと腕の傷に向いていてサイファーと視線を合わせることは無い。
眉間に皺を寄せ、サイファーはそれを見た。アーリアの表情は無表情だった。
あと少し、包帯を巻き終われば。
「終わったよ」声とともに、包帯を切り、しっかりと止めた。そして、再度立ち上がったアーリアの視線はこちらではなく未だ手当をしているスコールへ。
”俺を見ろよ”なんて言えなかった。
「アーリア」
代わりに手を伸ばし、アーリアの手を掴む。殆ど無意識の行動にサイファー自身驚きながら、後ろ姿に声を投げかけた。
大きな緑の瞳をもう一回り大きくして、彼女の視線がサイファーを射抜く。それを満足だと、サイファーの上がった口角より臨む白い歯が物語った。
その視線を、表情を―――手に入らないから手に入れたいと思った。
それはアーリアがこちらに来て2年が立った日の事。
(2014/12/25)
(2016/12/13修正)
(2023/11/28修正2)