Eternal Oath

その時の私は思い出が上書きされることを何よりも恐ていた。

06.十五夜草


ガーデンの裏側、その一角は墓地になっている。土壌がいい為か花のよく咲く美しい場所に、授業や訓練で命を落とした生徒の墓標―――とりわけ引き取り手のいない孤児のものが、並んでいる。

訪れる人の少ないここは、まだ個室を持てないアーリアの数少ない落ち着ける場所であった。
むろんアーリアに悼むべき人物などいない。ただ、その事実が自分の居場所がここではないのだと知らしめていて心地よかった。
いつも通りゆっくりとあたりを見回し人がいないことを確認すると、彼女は適当に腰掛け自身の膝を抱え込んだ。

「帰りたい」

そうして、決まってそう呟くのだ。



ここにきてどの位経ったのだろうか。

優しいラグナ達から逃げるようにガーデンに来た。
それなのに、報告のためと始めたビデオ通話はいつの間にか毎週の習慣となっていた。
学友はいつだってアーリアの傍にいる。



アーリアにとってガーデンでの生活は楽しかった。そして、その事実が恐ろしかった。
ガーデンでの思い出が増えた分だけ、元の世界の―――彼女の記憶が消えていく。


これが元の世界だったら、スラムの協会にいけば良かった。そうすればライフストリームの中から彼女の意識を拾えたのに、ここでは優しい星の声がきこえるだけ。


「エアリス」


唯一の同胞の名を呼んだ。
まだ思い出せる、やさしく微笑む彼女の笑顔。




「帰りたい
帰り、たいの」
何度も呟いたアーリアの思いが静寂に溶け込んで無くなってゆく。


幸せも大切な人も全てアーリアは欲しくはなかった。優しく微笑むエアリスの、アーリアの幸せはそれだけで、大切な人は彼女だけだった。
忘れたくなくて、一度だってGFは使わなかったのに。

それなのに少しづつ記憶は薄れて、―――もうあなたの声を思い出せない。



「―――アーリア

エアリスはいつだって微笑んでいて優しい声でアーリアを呼んだ。
今彼女を呼ぶのは、低い男の声。


「―――おい、アーリア


柔らかい響きはなくても、優しい声だった。
今一番彼女のそばにいる学友の声だ。

金色の短髪をオールバックにまとめた灰色のコートのその人物は、アーリアの前に立ち手を差し出す。


「サイ、ファー・・・?」
「おう」
「どうして?」
「お前を探してたんだよ
何してんだこんな所で」

ふるふると顔をふって、何もしてない事を示した。
もう、一人になれるところすらないんだ。

立たせるために引かれたアーリアの手。サイファーの体温が伝わった。
それを暖かくて幸せだとアーリアは思ってしまった。


(2014/12/25)
(2016/12/18修正)
(2023/11/28修正2)