Eternal Oath

話は一時間ほど前まで遡る。その日はガーデンに入学してから3年が経った、アーリアの16歳の誕生日の日であった。

「今夜、訓練施設に来い」

夕食の折、簡潔に言われた。

07.始まりの夢


「訓練施設か」

”誕生日おめでとう!”プラカードを画面いっぱいに広げたラグナ達の写真をみつめ呟く。恐らくラグナが描いたのであろう誕生日の字が間違っているのはご愛嬌だ。
そろそろ行ったほうが良いのだろうか?夜じゃいつ行っていいのか悩んでしまう。
そうだこのメールに返信してからにしよう。
そう決め、ありがとうとシンプルな文面でラグナに返事を出すとアーリアは訓練所へと向かった。

まだ夜というよりは夕方に近い時間であったからサイファーを少し待つつもりであったが、アーリアの予想に反しサイファーは訓練所の入口で立っていた。


「遅せえ」
「何時って言わなかったから」

アーリアを見つけ、もうすでにガンブレードを抜いたサイファーが体ごと彼女のほうを向いた。
彼女は早めに行ったつもりだけど、サイファーはだいぶ待っていたようだ。
イライラした様子の彼はこっちだと短くいってさっさと歩き出す。


「はっ!」―――先を歩くサイファーがそんな声を漏らしながら戦い始めた。斬撃に合わせて引かれたトリガーが火花を散らし攻撃の威力を何倍も引き上げる。


正規のSeeDと遜色ない実力の二人はあっという間に訓練施設の最奥へとたどり着く。
その間特に会話もなかった。

何をしに呼んだのだろう、そうアーリアは疑問に思い口を開く。

「サイファー、ここで「こっちだ」」
ここで終わりだと立ちすくむアーリアの腕をつかみ、隠れる様に設置された通路をサイファーは案内する。

訓練場の端、細い道だった。
こんな所に通路があることなどアーリアしらない。

道を抜けた先はガーデンのバルコニーになっていて、外の風景が目に飛び込んだ。
なるほど生徒たちの秘密の逢引場所になっているらしく、夜になったというのに何組かのカップルがそこにいた。
彼らから離れた場所に、アーリアとサイファーは陣取った。


その場所の見晴らしの良さにアーリア目を見開く。空の端に残る橙と静かな紫根の中ガーデンの明かりがキラキラと反射していた。
秘密の場所と呼ばれていると、サイファーはそうアーリアに教える。

「きれい」

思わずこぼした言葉に、サイファーは満足そうに笑い手すりに寄りかかった。どうだすごいだろう、―――そういいたげな表情でまだ惚けたアーリアを見下ろす。



アーリア
お前に夢はあるか?」
「夢?」

その問はあまりにも突拍子もなくて、サイファーはふざけているのかとアーリアは思った。しかし、真っ直ぐに彼女を穿つ空色の瞳が、真剣な表情が、嘘ではないと物語っており”夢”というものがサイファーにとって特別なものだと感じるのに充分であった。
しかし、夢と言われても思い浮かぶものなどない。
”帰りたい”―――ふと、エアリスの顔が脳裏をかすめた。


「・・・仲間と、一緒に暮らすこと」


小さい声であったが、サイファーにもそれは届いた。


「っは、なら夢はかなってるんだな」


心なしか嬉しそうにサイファーは言った。アーリアのさす仲間はガーデンの事だと思ったのだ。
その勘違いを指摘せずに、アーリアは視線を彷徨わせた。―――帰らなきゃいけない場所がある。それを伝えるのはなんでか躊躇した。

「サイファーは?」

その空気に耐えられなくて、アーリアはそう切り出した。キラキラとした彼の笑顔が心に積もって苦しい。

「俺の夢は魔女の騎士になることだ」
「魔女の騎士・・・?」
「”魔女の騎士”って映画知ってるか?」

その言葉に心当たりがあり、アーリアはうつむく。

「ガキの頃見てよ
何度も見たぜ!

魔女の騎士役のやつがかっこよくてよ!」

それからずっと夢だったのだと。
興奮して語るサイファーに、そっと目をそらすしかできない。

『魔女の騎士』と言う映画には心当たりがありすぎた。それを見たのは最近で、楽しい映画だとウォードがくれたラグナが主演の映画であった。
映画を見ながら爆笑していたキロスとウォード、「いい演技だろ?ま、声は俺んじゃねっけどなー」そう自慢したラグナ、交互に浮かぶ。


良かったね、ファンがいたよ。
今度ラグナに出会えたらそう伝えようと思う。



それにしても、魔女の騎士に憧れるなんて珍しいとアーリアは思う。
魔女と言えば、この世界で悪の象徴に近いのだ。二十年ほど前にエスタに存在し少女を誘拐して回ったアデルに代表されるように、その魔法を使って人々に恐怖を与える者が多かったことが理由だ。



しかし、本当に魔女は悪いのだろうか。


「魔女は・・・」


普通の人間と違う力を持っている孤独を、虚無を、アーリアは知っていた。
もしも、自らの力が恐れられ人々に攻撃を向けられていたら、アーリアは”魔女”にならない自信は無かった。
アーリアとエアリスが最後まで人の為に戦えたのは、偏に関わってきた人間の人柄が良かったからだ。・・・それが幸せだったのだと思う。


「お前が魔女だったら良かったのにな」
「え?」


思わず見上げたその顔は未だ輝いて。


「そうしたらお前を守ってやるよ」
「―――本当、に?」
アーリアの震えた声。

「ああ」
頷きはっきりと貰えた返事は、笑顔よりももっと大きく重くアーリアの心に残った。


(2014/12/25)
(2016/12/19修正)
(2023/11/28修正2)