Eternal Oath

待機時間も長くなり苛々し始めたサイファー達の耳に入ったのは、ガルバディア軍は電波塔を狙っているとの会話だった。
なんとなく嫌な予感がして、アーリアは天を仰いだ。


「敵目標は山頂の施設と判明
我々B班は山頂を確保すべく移動する」
そして、サイファーの発した言葉にやっぱりかぁとため息一つ。

そうして班長の命で、電波塔へ向かう運びとなった。

09.パゴダの風景


四人がドールの町並みを抜け電波塔の前までたどり着くと話の通りガルバディア兵士の姿が見えた。岩陰に隠れ様子を伺うと兵士が何人かあわただしく出入りしている。
まさか、この電波塔が目的で今回の侵攻を起こしたとでも言うのだろうか。
目を細めてそれを見ていたサイファーがアーリアを振り返る。


「なにやってんだあいつら

・・・まぁ関係ねえか
アーリア、戦場は初めてだろ?怖いか?」

アーリアは静かに首を横に振る。この程度なら誰も失わないだろう。彼女にとって強い敵がいない戦場に恐れることなどなかった。
それを確認すると、サイファーは満足そうに笑いながらアーリアの頭をくしゃくしゃとかき混ぜた。


「そうか、俺もだ
俺は戦場が大好きだ

戦闘が終わっても生きてるって事は確実に、夢の実現に近づいてるって事だ」
「・・・うん」

手櫛でアーリアは髪を整え訓練所での言葉を思いだしながら、アーリアは返事をする。
なんでかサイファーの顔は見れなかった。



「夢?」

彼らしからぬ言葉に思わずスコールが問うが、サイファーはふんと鼻で笑い返す。
彼は知らなくてもいい話だったが、スコールにならいつか教えてもいい。
いい加減話も飽きたな。
ガルバディア兵から隠れるように伏せていた体をサイファーは起こす。

「いつか聞かせてやるぜ!
俺のロマンチックな夢をな!」

―――サイファーはそれだけ言って手前の崖を電波塔へと飛び降りた。アーリアは思わず手を伸ばすが、サイファーのコートへ届くことは無い。
追いかけよう、そうアーリアが立ち上がる。



「みーつけたっ!」

途端後ろから、場にそぐわない明るい声。振り返ればアーリア達の後ろにある小高い崖の上からバラムガーデンの制服を着た少女が見下ろしていた。

短い茶色い髪をした元気そうな少女で名前をセルフィ、A班の伝令だと名乗った。彼女は”伝令はリーダーに行う”と言う教え通りサイファーを探すが、サイファーはすでに崖を飛びおりてしまっている。
「はんちょは?」
「あっちだ」
スコールが指した指の先、彼女はサイファーのように崖を飛び下りて電波塔へ向かってしまった。



「私たちも行こう」


短く言うと、アーリアも崖を飛び下り仕方なしにスコールとゼルも続く。どちらにしろ試験を受けている以上リーダーを探すしかないのだ。
特に邪魔も入らず、四人は電波塔を登り切ったが、そこにサイファーの姿はなく代わりにガルバディア兵。彼らはどうやら電波塔の修理をしていたらしくこちらを見つけて驚き剣を抜いたが、そんなガルバディア兵などには目もくれず、アーリアはきょろきょろとあたりを見回した。


「サイファーいないですね」

「いや、それよりやべえだろ」
「構えろ!くるぞ!」
「まずいよ~!」


サイファーを探すアーリアのずれた発言に、ゼルが突っ込みスコールが注意を促す。
アーリアは剣を抜くと、自身に向ける剣を軽くはじき、同時に唱えていた魔法でガルバディア兵を攻撃した。―――そこから先はほとんどアーリアの独壇場であった。



「強え・・・」

思わず出たゼルの言葉に同意するものは今いない。ゼルの目の前で、アーリアが剣を振るう。使っている武器はショートソードで、スコールの剣とは威力では勝負にならないはず。それを感じさせない早さと正確性で彼女はガルバディア兵を倒していた。
初めての実践で緊張の残るスコール達と違い、彼女の攻撃には迷いがない。その差が動きの差となっていた。


「―――サンダラ」

いつドローしたのか魔法まで使って、彼女は簡単に戦闘に勝って見せた。
何事もなかったように剣をしまったアーリアは先と同じ様子でサイファーを探す作業へと戻る。

思わずスコール達三人は気圧され、手の汗を洋服で拭う。
一連の流れを見て、彼女も同じ候補生なんだとはどうしても思えなかった。


―――そのくらい戦いなれていた。



戦闘が終わってしばらくして鈍い機械音と共にリフトが動いた。


「サイファー!」
漸く見つけたとアーリアが声を上げる。どうやら戦闘音を聞いて上まで上がってきたようだった。
ここで逃せばもう機会がなくなってしまうと、すかさずセルフィが駆け寄り伝令を伝えた。


「B班班長!伝令です!
SeeDおよびSeeD候補生は19:00時に撤収
海岸に集合せよ!」
「撤退命令?」


時間を見れば18:30。あと三十分。サイファーは走れと命令し一人で撤退を始めた。
ミホはやれやれと首を降り、スコールは溜息をつき、ゼルは怒りに震えるがそんな時間ももったいない。


「仕方がない、俺たちもいくぞ」
「うん」

スコールの言葉を皮切りにアーリア達も移動を始める。三十分という時間は長いようで短い―――何かがあれば間に合わない時間だ。

アーリアは初めての試験は散々な結果だと思いつつ走る。これで船にまで乗り遅れたら目も当てられない。


ドールへ置いてけぼりは誰だってごめんだ。


(2014/12/25)
(2016/12/21修正)
(2023/11/29修正2)