Eternal Oath

「逃げて!」
言った少女は、一人で敵に向かっていった。

まるで誰もいらないと言っているみたいだ。
自分も同じ風に振る舞っていることを棚にあげ、スコールは眉をひそめた。

10.まだ願い事


―――ガチャン!

衝撃。そして、後ろから聞こえた着地音。
間に合わない”何か”だとアーリアは直感した。不穏な音と共に四人に近づいたのは、蟹のような姿をしたガルバディアの機械X-ATM092であった。橋や狭い道の続くドールでは、人より早く走るこれを避け続けることは難しい。

「っ、くそ!!」
「―――スコール!逃げて!!」
アーリアは瞬時に叫び、スコールに指示をだす。 今のスコール達ではこの機械は倒せないと考えると同時に剣の装飾具をはめ込む。緑と青の宝石が埋め込まれたその剣で斬りつければ、ダメージが通ったのかX-ATM092の動きが鈍る。


「置いてけないよ~!」
「俺も手伝うぜ!!」
セルフィとゼルは瞬時に足を止め、武器を構えた。
一歩も二歩も出遅れたスコールは彼女の言葉に従うか否か、視線を左右に一往復させると剣を抜いた。

横目で三人をみたアーリアは一瞬眉をひそめると、何やら詠唱を始める。
X-ATM092はいくらかダメージを与えると自己修復を始める。その間は追ってはこないが、それ故に壊れることもない。

三人が逃げないのなら倒すしかない。そして、それは斬撃だけでは難しいと徐々に治っていく機械の姿が示していた。

ならば、一気に壊してしまうだけ。


「さがって!」
詠唱が終わったアーリアが後ろに体を下がりながら叫んだり
その声に続いて三人も後ろへ飛びのいた。

「サンダガ、サンダガ」

幾重にも重なった雷が何度も機械を襲う。正規のSeeDが使うような最上級の魔法が、何度か敵を襲う。雷に弱いX-ATM092が耐えられるものではなかった。
「行こ」
修復のポーズのまま止まってしまったそれに背を向けたアーリアは、あっけにとられる三人を促し、また走る。時間がないのだ。




* * *



結果から言うと、ぎりぎり出航には間に合った。転げ込むように船に乗り込んだ四人をしり目に、遅かったなと言わんばかりにサイファーは椅子に寛いでおり、付き添いのSeeDであるシュウに叱られていた。そんなシュウの説明によると、電波塔の利用許可と引き換えに兵を撤退すると、ドールとガルバディアの間で話がついた為の撤退であったと説明された。

「おう、無事だったか」
「サイファーも」
アーリアが柔らかい口調なのは、誰も死ななかった安堵が根底にあるからだ。誰かが血に濡れる姿なんて、もう二度とみたくなんてない。
そんな彼女の思いを知ってか知らずか、無傷を示すため軽く手を挙げたサイファーは得意げだ。


「怪我ないならいいんだ」
アーリア何言ってるんだよ!
俺たちを置いていきやがって!むかつくぜ・・・」
それに、無言を返すとアーリアは静かに席に座った。あんな戦いをしたと思えないくらい落ち着いた彼女の姿に、サイファーはX-ATM092を倒してきたなんて思いもしない。

そんな彼らを乗せた船は行きと同じ時間をかけバラムへ戻っていった。


「サイファー!」
バラムについた途端にサイファーに駆け寄ってきたのは風神と雷神の二人であった。ぼうっとそれを見るアーリアの腕をサイファーが掴み、強引に自分たちの輪に入れる。
「帰るぞ」
「っ・・・」
バラムガーデンが”帰る”場所だ。しかし弾かれる様に頭をあげたアーリアの眼に浮かぶのは困惑の色。
「サイファー・・痛いよ」
サイファーは彼女の口から否定の言葉が出る前に手に力をいれた。アーリアが視線を落とすと、掴まれた手首は赤くなっていた。

「ほら、帰るからさっさと乗れ」
「・・・・・うん」
そのまま腕を引っ張られる形でジープに乗せられた。そんな二人を穏やかに笑って風神と雷神は見、お疲れ様と声をかけた。


楽しそうに話す雷神の声、それらに穏やかに答えるサイファーの声、そして流れるバラムの風景。
アーリアは静かに目を閉じた。


(2014/12/25)
(2017/05/26修正)
(2023/12/01修正2)