試験の結果サイファーは当然といえば当然だが、不合格。
そして、アーリア達四人は合格した。
それは、アーリアが望んだ結果だった。
SeeD試験後恒例のダンスパーティーが始まる。新たなSeeDのお披露目を兼ねたパーティだ。
ガーデンが誇る星空を臨んだダンスホールでは、試験に合格した者、落ちた者、優秀な傭兵を見極めに来た者、様々な者たちが煌びやかな衣装を身に着け踊っている。
そんなパーティにSeeDに合格したアーリア達も参加していた。
ゼルやセルフィは憧れだったSeeDの制服に身を包み、嬉しさにはしゃいでいる。
一方、スコールとアーリアは壁に背を預けダンスホールからは一歩引いた場所にいた。
「ふう」
「・・・飲む?」
「何だ?」
「オレンジジュース」
アーリアは、先ほどウエイターから受け取ったグラスをスコールへ渡す。
居心地の悪さを感じていたスコールはアーリアより受け取ったグラスを一気に飲み干した。
そんな二人に近づく影が一つ。黒い髪に白のタイトなドレスを身にまとった二人と同じくらいの年頃の女の子だった。
一見おとなしそうな雰囲気の子であったが、スコールと目が合うとにっと笑って、足早に彼に近づいた。
覗き込むように下からスコールをねめつけて「ね、君が一番かっこいいね」なんて。
印象通りの人物でないことがその一言で分かる。
おとなしく見えて、大胆で、まっすぐな女の子。
食入るように見つめるアーリアの目の前で、踊ろうよと冷たいスコールにもめげず何度も誘っている姿が印象的だ。
「あ。もしかしてカノジョ?」
そんなアーリアに気づいて尋ねる。
答えるかわりに首を横にふると、「じゃあいいでしょ?」とスコールを引っ張って行ってしまった。
その背をじっとアーリアは見つめていた。
何も知らない第三者からすれば、スコールに横恋慕しているか、踊りたいと思っている見えただろう。
そして、一連の流れを遠くからみていたサイファーは後者と捉えた。
だから、彼はゆっくりと彼女へと近づいた。
「踊るか?」
アーリアが差出された右手に沿って視線を上げると、いつもと同じ灰色のコートをはためかせサイファーが首をかしげていた。
弧を描いた空色の瞳が、アーリアを映す。
「・・・サイファー」
「SeeD様がこんなとこいるなよ」
差出された手を見て止まってしまったアーリア。強引に手を引いてしまいたい衝動にかられたサイファーだが、ぐっと我慢する。
たまには、彼女の方から手を伸ばされてみたかった。
そんならしくないことを考えてしまうのは、彼女が身にまとっているのがSeeDの制服だからだろう。
やがて、おっかなびっくり手が伸ばされて、重ねられた手を握ると彼女を連れてダンスホールへ。星の輝く天窓の下、ダンスホールの中央を陣取りステップを踏見始めた。
かたやガーデン一の問題児。かたやSeeDに合格したばかりの少女。そんな二人に好機の視線がささる。
「待ってろ、来年は俺もSeeDになる」
口火を切ったのはサイファーだった。
それを聞いてアーリアは分かった。
ああ、分かってしまった。
「サイファー・・・」
つきんと胸が痛んだのは、得たものを手放さなければならないからだ。でも、気づいてしまったのならもう彼と共にはいられない。
「ごめん。待てない」
それがアーリアの返事だった。
* * *
ダンスホールを抜けた先はバルコニーとなっていて、二人のほかに人影はない。
ワルツの終わった、曲と曲の切れ目の時間に、サイファーがアーリアここまで引っ張ってきたのだ。
「そんなに・・・」
待てないくらい頼りないのか。
珍しくサイファーの目が不安に揺れる。アーリアをつかんだままの手がじわりと汗ばんだ。
「少しだけ聞いてくれる?」
「ああ」
小声だがあたりは静かであるからはっきりと彼女の声は聞こえた。
その声色はこわばっていた。
「私は帰る場所があるの
はい?思わず彼女から手をはなしてサイファーは目を見開いた。ここにきてはじめて、まっすぐと緑の瞳がサイファーを見つめた。
「唯一の”家族”が待ってる。
だから、私、サイファーを待てない」
待てないの。
言い聞かせるように。
もう一度アーリアが言った。
(2015.01.01)
(2017.05.26修正)
(2023.12.01修正2)
そして、アーリア達四人は合格した。
それは、アーリアが望んだ結果だった。
11.いつか帰る場所
SeeD試験後恒例のダンスパーティーが始まる。新たなSeeDのお披露目を兼ねたパーティだ。
ガーデンが誇る星空を臨んだダンスホールでは、試験に合格した者、落ちた者、優秀な傭兵を見極めに来た者、様々な者たちが煌びやかな衣装を身に着け踊っている。
そんなパーティにSeeDに合格したアーリア達も参加していた。
ゼルやセルフィは憧れだったSeeDの制服に身を包み、嬉しさにはしゃいでいる。
一方、スコールとアーリアは壁に背を預けダンスホールからは一歩引いた場所にいた。
「ふう」
「・・・飲む?」
「何だ?」
「オレンジジュース」
アーリアは、先ほどウエイターから受け取ったグラスをスコールへ渡す。
居心地の悪さを感じていたスコールはアーリアより受け取ったグラスを一気に飲み干した。
そんな二人に近づく影が一つ。黒い髪に白のタイトなドレスを身にまとった二人と同じくらいの年頃の女の子だった。
一見おとなしそうな雰囲気の子であったが、スコールと目が合うとにっと笑って、足早に彼に近づいた。
覗き込むように下からスコールをねめつけて「ね、君が一番かっこいいね」なんて。
印象通りの人物でないことがその一言で分かる。
おとなしく見えて、大胆で、まっすぐな女の子。
食入るように見つめるアーリアの目の前で、踊ろうよと冷たいスコールにもめげず何度も誘っている姿が印象的だ。
「あ。もしかしてカノジョ?」
そんなアーリアに気づいて尋ねる。
答えるかわりに首を横にふると、「じゃあいいでしょ?」とスコールを引っ張って行ってしまった。
その背をじっとアーリアは見つめていた。
何も知らない第三者からすれば、スコールに横恋慕しているか、踊りたいと思っている見えただろう。
そして、一連の流れを遠くからみていたサイファーは後者と捉えた。
だから、彼はゆっくりと彼女へと近づいた。
「踊るか?」
アーリアが差出された右手に沿って視線を上げると、いつもと同じ灰色のコートをはためかせサイファーが首をかしげていた。
弧を描いた空色の瞳が、アーリアを映す。
「・・・サイファー」
「SeeD様がこんなとこいるなよ」
差出された手を見て止まってしまったアーリア。強引に手を引いてしまいたい衝動にかられたサイファーだが、ぐっと我慢する。
たまには、彼女の方から手を伸ばされてみたかった。
そんならしくないことを考えてしまうのは、彼女が身にまとっているのがSeeDの制服だからだろう。
やがて、おっかなびっくり手が伸ばされて、重ねられた手を握ると彼女を連れてダンスホールへ。星の輝く天窓の下、ダンスホールの中央を陣取りステップを踏見始めた。
かたやガーデン一の問題児。かたやSeeDに合格したばかりの少女。そんな二人に好機の視線がささる。
「待ってろ、来年は俺もSeeDになる」
口火を切ったのはサイファーだった。
それを聞いてアーリアは分かった。
ああ、分かってしまった。
「サイファー・・・」
つきんと胸が痛んだのは、得たものを手放さなければならないからだ。でも、気づいてしまったのならもう彼と共にはいられない。
「ごめん。待てない」
それがアーリアの返事だった。
* * *
ダンスホールを抜けた先はバルコニーとなっていて、二人のほかに人影はない。
ワルツの終わった、曲と曲の切れ目の時間に、サイファーがアーリアここまで引っ張ってきたのだ。
「そんなに・・・」
待てないくらい頼りないのか。
珍しくサイファーの目が不安に揺れる。アーリアをつかんだままの手がじわりと汗ばんだ。
「少しだけ聞いてくれる?」
「ああ」
小声だがあたりは静かであるからはっきりと彼女の声は聞こえた。
その声色はこわばっていた。
「私は帰る場所があるの
はい?思わず彼女から手をはなしてサイファーは目を見開いた。ここにきてはじめて、まっすぐと緑の瞳がサイファーを見つめた。
「唯一の”家族”が待ってる。
だから、私、サイファーを待てない」
待てないの。
言い聞かせるように。
もう一度アーリアが言った。
(2015.01.01)
(2017.05.26修正)
(2023.12.01修正2)