Eternal Oath

待っててくれなんて。
そんな風に言われて嬉しかった。

「帰る場所があるの」
でも、それを認めてしまうことは怖かった。

12.逃げたい、逃がさない


アーリア
絞り出すように声を出したサイファーの声。
少しだけ震えたアーリアの体を彼は衝動的に抱きしめた。

「―――え」


体から伝わるぬくもりと裏腹に、心が冷えていくようだった。
嫌じゃないことが怖かった。

「はな、して」

彼女が全力でサイファーの胸を押すと、ゆっくりと体が離れた。
少し安心した。これ以上続けられたら、帰りたくなくなってしまうとアーリアは思った。
それに心地よいこの体温でエアリスの体温を忘れてしまうことが、アーリアにとって何よりも恐ろしい。

お願いだからこれ以上。
私の大切にならないで。彼女を失ってからの思い出が、だんだん彼女の思い出を消していく。



「思い出せないの・・・」
「思い出せない?」
「ずっと帰りたくて、エアリス以外いらなかったのに。
ここも、みんなの側も・・・好きで、帰りたくなくなってしまうことが怖い」

怖いの。と、そう声にだし顔を上げた。
言っている意味がサイファーにはわからなかった。でも、アーリアは今にも泣きそうな表情をしていた。

まだこぼれない涙を拭うように、サイファーがアーリアの顔に触れる。
彼女の体がびくりと震えた拍子に、涙がその目からこぼれ彼の指を濡らした。


「サイファー」
「そうだな」
漸く合点がいって、サイファーはため息を一つ。

サイファーは知っていた。
アーリアがその表情を少し崩して笑う時がある。

友人と一緒に遊んだ時。
先生に褒められた時。
そして、サイファーと一緒にいる時。

口角を少しだけ上げたあと、必ず彼女は少しだけ唇をかんで表情を戻していたこと。




一つ一つを大切に思ってるから彼女はそれから逃げようとしているんだとサイファーは気づいてしまった。
恐ろしく感じるくらい彼女がガーデンや自分を好きでいること。



「―――なら、待ってなくていい

俺が勝手に追いつくからな」

ゆえにサイファーはにっと笑って、アーリアの頬をつかんだ。



その事実だけが重要で、ならサイファー自身がアーリアを見失わなければいいだけだ。
夢をかなえたその時に、彼女が自分の隣にいるように。



(2015/01/01)
(2016/08/14修正)
(2023/12/02修正2)