Eternal Oath

次に気が付くと、ぷかぷかと黒い空間に浮いていた。
遠くに川が見えたからそちらに近づいてみる事にする。


「だめ」

え?


「来ちゃダメ」


なんで・・・


「生きて」


エアリス!

22.手を伸ばした


「エア、リス」


”また”彼女がそう声を上げた。

サイファーがスコールの拷問から戻ってくると、の手当は終わっていて、部屋の中央に据えられたベッドの上に体が横たえられていた。
軍医の話によると、魔法が効かない傷のようで、本人の治癒力に任せるしかないそうだ。

怪我が原因の高熱に魘されるは先ほどから、何度も同じ言葉を繰り返している。

―――曰く
エアリス
行かないで
と。

の言葉を聞くうちに、サイファーは一つ気付いてしまった。
彼女の言う同胞はおそらくもう生きてはいないのだろう。


「だから、ここにはいれねぇって言うのか・・・?」


エアリスを守れなかった自分には、幸せになる権利などないと。
彼女はそう思っているようだった。
何度も何度も、名前を呼び行かないでと手を伸ばす。
その都度手を握ったり頭を撫でたりしてみるが、反応が返ってくる事はなかった。

そのうちに熱に潤む、緑の瞳が薄く開いた。


「っ!」
「・・・ド・・・?」

口を開け、誰かの名前を呼んだようだ。熱に浮されサイファーが別人に見えているらしい。
泣きそうな顔でほほ笑んだ。


「エ、リスがいたの・・・川、向こう」

川の向こうと言う言葉にサイファーの表情が引き攣る。

「私、いこうとした、でも行けなかった

こな、で・・・って」

そこまで言って、辛そうな顔をさらに歪めてが、サイファーの手を掴む。


「私はっ、エアリスと一緒に居たかった
・・・エアリスに幸せになってほしかったの」


そこまで聞いて、ふと、サイファーは思った。


「それは、そいつも同じだったんじゃねぇか?」


驚いた様に、目を何度も瞬かせ、は天を仰いだ。

がこちらに来たのは13の時だったと思い出す。
それならば、その”同胞”が死んだのはもっと前の事だろう。
殺されたにしろ、事故にしろ、その”同胞”がまっとうであれば、死の危険が付きまとうような何かの代わりなど、子供にさせないであろう。
それが大切な人であれば尚更だ。


「そ、か・・・」


は怪我をしてるとは思えないほど強く手を握る。
そして、そのまま目を閉じた。


「ね・・・は、
いな・・ならな・で」


―――いなくならないで


「いなくなんねぇよ」


再び意識を失い力が抜けていく手を、強く握り返した。


(2015/01/01)
(2016/08/14修正)