次に気が付くと、ぷかぷかと黒い空間に浮いていた。
遠くに川が見えたからそちらに近づいてみる事にする。
「だめ」
え?
「来ちゃダメ」
なんで・・・
「生きて」
エアリス!
「エア、リス」
”また”彼女がそう声を上げた。
サイファーがスコールの拷問から戻ってくると、の手当は終わっていて、部屋の中央に据えられたベッドの上に体が横たえられていた。
軍医の話によると、魔法が効かない傷のようで、本人の治癒力に任せるしかないそうだ。
怪我が原因の高熱に魘されるは先ほどから、何度も同じ言葉を繰り返している。
―――曰く
エアリス
行かないで
と。
の言葉を聞くうちに、サイファーは一つ気付いてしまった。
彼女の言う同胞はおそらくもう生きてはいないのだろう。
「だから、ここにはいれねぇって言うのか・・・?」
エアリスを守れなかった自分には、幸せになる権利などないと。
彼女はそう思っているようだった。
何度も何度も、名前を呼び行かないでと手を伸ばす。
その都度手を握ったり頭を撫でたりしてみるが、反応が返ってくる事はなかった。
そのうちに熱に潤む、緑の瞳が薄く開いた。
「っ!」
「・・・ド・・・?」
口を開け、誰かの名前を呼んだようだ。熱に浮されサイファーが別人に見えているらしい。
泣きそうな顔でほほ笑んだ。
「エ、リスがいたの・・・川、向こう」
川の向こうと言う言葉にサイファーの表情が引き攣る。
「私、いこうとした、でも行けなかった
こな、で・・・って」
そこまで言って、辛そうな顔をさらに歪めてが、サイファーの手を掴む。
「私はっ、エアリスと一緒に居たかった
・・・エアリスに幸せになってほしかったの」
そこまで聞いて、ふと、サイファーは思った。
「それは、そいつも同じだったんじゃねぇか?」
驚いた様に、目を何度も瞬かせ、は天を仰いだ。
がこちらに来たのは13の時だったと思い出す。
それならば、その”同胞”が死んだのはもっと前の事だろう。
殺されたにしろ、事故にしろ、その”同胞”がまっとうであれば、死の危険が付きまとうような何かの代わりなど、子供にさせないであろう。
それが大切な人であれば尚更だ。
「そ、か・・・」
は怪我をしてるとは思えないほど強く手を握る。
そして、そのまま目を閉じた。
「ね・・・は、
いな・・ならな・で」
―――いなくならないで
「いなくなんねぇよ」
再び意識を失い力が抜けていく手を、強く握り返した。
(2015/01/01)
(2016/08/14修正)
遠くに川が見えたからそちらに近づいてみる事にする。
「だめ」
え?
「来ちゃダメ」
なんで・・・
「生きて」
エアリス!
22.手を伸ばした
「エア、リス」
”また”彼女がそう声を上げた。
サイファーがスコールの拷問から戻ってくると、の手当は終わっていて、部屋の中央に据えられたベッドの上に体が横たえられていた。
軍医の話によると、魔法が効かない傷のようで、本人の治癒力に任せるしかないそうだ。
怪我が原因の高熱に魘されるは先ほどから、何度も同じ言葉を繰り返している。
―――曰く
エアリス
行かないで
と。
の言葉を聞くうちに、サイファーは一つ気付いてしまった。
彼女の言う同胞はおそらくもう生きてはいないのだろう。
「だから、ここにはいれねぇって言うのか・・・?」
エアリスを守れなかった自分には、幸せになる権利などないと。
彼女はそう思っているようだった。
何度も何度も、名前を呼び行かないでと手を伸ばす。
その都度手を握ったり頭を撫でたりしてみるが、反応が返ってくる事はなかった。
そのうちに熱に潤む、緑の瞳が薄く開いた。
「っ!」
「・・・ド・・・?」
口を開け、誰かの名前を呼んだようだ。熱に浮されサイファーが別人に見えているらしい。
泣きそうな顔でほほ笑んだ。
「エ、リスがいたの・・・川、向こう」
川の向こうと言う言葉にサイファーの表情が引き攣る。
「私、いこうとした、でも行けなかった
こな、で・・・って」
そこまで言って、辛そうな顔をさらに歪めてが、サイファーの手を掴む。
「私はっ、エアリスと一緒に居たかった
・・・エアリスに幸せになってほしかったの」
そこまで聞いて、ふと、サイファーは思った。
「それは、そいつも同じだったんじゃねぇか?」
驚いた様に、目を何度も瞬かせ、は天を仰いだ。
がこちらに来たのは13の時だったと思い出す。
それならば、その”同胞”が死んだのはもっと前の事だろう。
殺されたにしろ、事故にしろ、その”同胞”がまっとうであれば、死の危険が付きまとうような何かの代わりなど、子供にさせないであろう。
それが大切な人であれば尚更だ。
「そ、か・・・」
は怪我をしてるとは思えないほど強く手を握る。
そして、そのまま目を閉じた。
「ね・・・は、
いな・・ならな・で」
―――いなくならないで
「いなくなんねぇよ」
再び意識を失い力が抜けていく手を、強く握り返した。
(2015/01/01)
(2016/08/14修正)