―――金糸の髪に紅い瞳。
―――人は彼女を『金色』と呼んだ。
『金色』の名が騒がれたのは世界が滅んですぐのことだった。
数少ない“豪邸”と呼ばれたソレにばかり盗み入り、わざと自分の姿を見つけさせる。
そして、決して貧しい家には入らない。
この珍しい盗賊の名は、瞬く間に世界に轟いた。
その日『金色』―リズ=ターナー―は森にいた。
世界が崩壊してから地形はかわり、リズの持っている地図もどこまでが正しいのかが分からない。
先日(盗みに)立ち寄ったあの町が、ジドールであったからその周辺であることはわかるのだが――迷い立ち入ったこの森で偶然見つけた湖で足を休めながらリズは思う。
「・・・誰だ」
ふと、自分の背後の気配に気づく。
「・・・」
相手は答えることはなかったが、一目みればそれが誰だかわかった。
犬を従えた黒衣の男。
暗殺者としてはあまりに有名なその男―シャドウ―は剣をこちらに向けないところを見るとどうやら追手ではないらしい。
「・・・シャドウ」
「”金色”・・・か」
どうやら向こうもリズのことを知っていたらしい。
盗賊と暗殺者。
奇妙な二人は言葉を発したきり、視線をお互いから外した。
色のないこの世界で、彼の持つ赤の瞳が目に焼き付いて離れない。
リズにはその“赤”が唯一の色に見えたのだ。
・・・
沈黙が続いた。
時たま水音がするだけで、動物どころかモンスターの鳴き声もしない。
もうそろそろ行くかと立ち上がろうとすると、案外すぐ隣に犬がいることに気がついた。
「食べるか?」
荷物に肉が入っていたことを思い出し、犬に差し出す。
犬は吠えるわけでもなく、その肉を食べだした。
くぅん
食べ終わると、お礼なのか小さく鼻を鳴らして体を摺り寄せた。
「・・・人には懐かないはずなんだが」
「そう・・・なのか?」
リズはお世辞にも動物に懐かれる人間とは言えない。
むしろ、動物に避けられるタイプの人間だ。
「名は?」
「インターセプター」
「そうか」
よろしく”インター”
そう、彼女はインターセプターをなでた。
インターセプターも満更ではないらしく、目を細める。
「インターセプターだ」
「長い」
呆れたようにシャドウはリズを見る。
そこで、ようやくリズは思い至る。
「リズ、リズ=ターナーだ」
自分の名を名乗っていないことを。
「・・・シャドウ」
お互いよろしくとは言わない。
ただ、二人にしてはめずらしく他人に興味をもった。
「どこへ?」
「ゾゾ」
以外にも向かう先は同じらしい。
あの町はリズたちのような人間には居易い場所であるからだろう。
「そうか・・・同じだな」
一緒にいくわけではない。
ただ、向かう先が同じなだけ。
最初はそうだった。
そんな始まりだった。
(2011/07/22)
―――人は彼女を『金色』と呼んだ。
『金色』の名が騒がれたのは世界が滅んですぐのことだった。
数少ない“豪邸”と呼ばれたソレにばかり盗み入り、わざと自分の姿を見つけさせる。
そして、決して貧しい家には入らない。
この珍しい盗賊の名は、瞬く間に世界に轟いた。
始まりの赤
その日『金色』―リズ=ターナー―は森にいた。
世界が崩壊してから地形はかわり、リズの持っている地図もどこまでが正しいのかが分からない。
先日(盗みに)立ち寄ったあの町が、ジドールであったからその周辺であることはわかるのだが――迷い立ち入ったこの森で偶然見つけた湖で足を休めながらリズは思う。
「・・・誰だ」
ふと、自分の背後の気配に気づく。
「・・・」
相手は答えることはなかったが、一目みればそれが誰だかわかった。
犬を従えた黒衣の男。
暗殺者としてはあまりに有名なその男―シャドウ―は剣をこちらに向けないところを見るとどうやら追手ではないらしい。
「・・・シャドウ」
「”金色”・・・か」
どうやら向こうもリズのことを知っていたらしい。
盗賊と暗殺者。
奇妙な二人は言葉を発したきり、視線をお互いから外した。
色のないこの世界で、彼の持つ赤の瞳が目に焼き付いて離れない。
リズにはその“赤”が唯一の色に見えたのだ。
・・・
沈黙が続いた。
時たま水音がするだけで、動物どころかモンスターの鳴き声もしない。
もうそろそろ行くかと立ち上がろうとすると、案外すぐ隣に犬がいることに気がついた。
「食べるか?」
荷物に肉が入っていたことを思い出し、犬に差し出す。
犬は吠えるわけでもなく、その肉を食べだした。
くぅん
食べ終わると、お礼なのか小さく鼻を鳴らして体を摺り寄せた。
「・・・人には懐かないはずなんだが」
「そう・・・なのか?」
リズはお世辞にも動物に懐かれる人間とは言えない。
むしろ、動物に避けられるタイプの人間だ。
「名は?」
「インターセプター」
「そうか」
よろしく”インター”
そう、彼女はインターセプターをなでた。
インターセプターも満更ではないらしく、目を細める。
「インターセプターだ」
「長い」
呆れたようにシャドウはリズを見る。
そこで、ようやくリズは思い至る。
「リズ、リズ=ターナーだ」
自分の名を名乗っていないことを。
「・・・シャドウ」
お互いよろしくとは言わない。
ただ、二人にしてはめずらしく他人に興味をもった。
「どこへ?」
「ゾゾ」
以外にも向かう先は同じらしい。
あの町はリズたちのような人間には居易い場所であるからだろう。
「そうか・・・同じだな」
一緒にいくわけではない。
ただ、向かう先が同じなだけ。
最初はそうだった。
そんな始まりだった。
(2011/07/22)