その花にみた、”思い出”。
お互い声を発しない日も稀ではなかった。
それに変化が起きたのは同じ道を歩みはじめて、何日目の事だったか。
長いようで、存外短い日数であったと俺は思う。
「・・・?」
金色の同行者――リズの視線の先には花が一輪。
たった一輪だが、紫色のそれはそこに存在していた。
「花か・・・」
この世界では珍しい。
荒れ果てた大地には雑草すらも碌に生ずることはなく、花など久しく見ることはなかった。
それは、金色とて同じであろう。
だからこそ、足をとめたのか。
「・・・」
何も言わず、金色は目を細める。
金色が花へよせるのは僅かな郷愁。
そのような僅かな動作で。
彼女の心を読めるようになったのはいつからだったか。
「いくぞ」
「ああ」
珍しく声で返事をする。
名残惜しいか。
ならば、残ればいい。
お互いに干渉する謂れは無いのだから。
それでも、金色に合わせ止まった足元に俺は僅かに驚いた。
何故俺は金色を待っていたのか。
「シャド」
「・・・」
幾日かぶりに、俺の名を呼ぶ。
もう慣れてしまった、一音足りぬ俺の名。
もう、それがいつから始まったかなど考えるのすらも面倒だ。
呼ばれた名に、俺が目金色へと目線をやれば、上がった口角。
瞬間、世界が揺らいだかのように、俺には思えた。
「お前は・・・」
あの小さな花に一体何を見出したのか。
『金色』らしからぬ顔で。
その紅の瞳に穏やかな光を移すほどの。
「花言葉は、”優しい思い出”・・・だそうだ」
それは、先ほどの花の事か。
その言葉を発すると、金色の目は後悔に伏せられる。
次の瞬間には、普段と同じ金色の姿がそこにあった。
「何を?」
「・・・」
俺の問に答えることはなく。
同じ歩調で金色は歩きだす。
「リズ、何を・・・見ていた?」
言葉にだしてまで、俺は何を聞いているのだろう。
「・・・シャド?」
僅かに金色・・・リズは目を見開く。
その視線は、俺から外れることはなく。
「あの花に、何を見ていた?」
「・・・さあ」
僅かに口角を上げ、リズは答える。
その瞳には先程と違い”穏やかさ”も”後悔”も見て取れなかった。
しかし、ひどく懐かしい瞳。
・・・かつての相棒と、同じ瞳をリズはしていた。
「いくぞ」
俺から視線を外し、リズが言った。
「ああ」
声を出して、俺はそれに答える。
(2011/09/14)
紫花
お互い声を発しない日も稀ではなかった。
それに変化が起きたのは同じ道を歩みはじめて、何日目の事だったか。
長いようで、存外短い日数であったと俺は思う。
「・・・?」
金色の同行者――リズの視線の先には花が一輪。
たった一輪だが、紫色のそれはそこに存在していた。
「花か・・・」
この世界では珍しい。
荒れ果てた大地には雑草すらも碌に生ずることはなく、花など久しく見ることはなかった。
それは、金色とて同じであろう。
だからこそ、足をとめたのか。
「・・・」
何も言わず、金色は目を細める。
金色が花へよせるのは僅かな郷愁。
そのような僅かな動作で。
彼女の心を読めるようになったのはいつからだったか。
「いくぞ」
「ああ」
珍しく声で返事をする。
名残惜しいか。
ならば、残ればいい。
お互いに干渉する謂れは無いのだから。
それでも、金色に合わせ止まった足元に俺は僅かに驚いた。
何故俺は金色を待っていたのか。
「シャド」
「・・・」
幾日かぶりに、俺の名を呼ぶ。
もう慣れてしまった、一音足りぬ俺の名。
もう、それがいつから始まったかなど考えるのすらも面倒だ。
呼ばれた名に、俺が目金色へと目線をやれば、上がった口角。
瞬間、世界が揺らいだかのように、俺には思えた。
「お前は・・・」
あの小さな花に一体何を見出したのか。
『金色』らしからぬ顔で。
その紅の瞳に穏やかな光を移すほどの。
「花言葉は、”優しい思い出”・・・だそうだ」
それは、先ほどの花の事か。
その言葉を発すると、金色の目は後悔に伏せられる。
次の瞬間には、普段と同じ金色の姿がそこにあった。
「何を?」
「・・・」
俺の問に答えることはなく。
同じ歩調で金色は歩きだす。
「リズ、何を・・・見ていた?」
言葉にだしてまで、俺は何を聞いているのだろう。
「・・・シャド?」
僅かに金色・・・リズは目を見開く。
その視線は、俺から外れることはなく。
「あの花に、何を見ていた?」
「・・・さあ」
僅かに口角を上げ、リズは答える。
その瞳には先程と違い”穏やかさ”も”後悔”も見て取れなかった。
しかし、ひどく懐かしい瞳。
・・・かつての相棒と、同じ瞳をリズはしていた。
「いくぞ」
俺から視線を外し、リズが言った。
「ああ」
声を出して、俺はそれに答える。
(2011/09/14)