確かめるように呼ぶ
それは何故かと問われても答えることはできない。
ただただ、焦燥にかられていた。
宿を出ると、すぐの処に一つの影を見つけた。
「インター・・・」
奴の愛犬を呼ぶと、僅かに反応を返したのが分かった。
その傍に、奴がいるのかはわからない。
今夜は月もなく、星すらも光っていない。
完全な闇。
黒衣の奴は簡単に溶け込んでしまう。
逆に奴からは良く私が見えている事だろう。
私は黒とは真逆の色だから。
「インター」
「わぅ」
奴の名前は呼ばず、もう一度彼の犬の名を呼ぶ。
インターは迷ったようなしぐさをしてこちらへときた。
それで私は確信する。
―――そこに奴がいる、と。
近づいてきたインターの頭を撫でる。
インターは何も言わず、それを受けた。
「・・・」
僅かに空気が揺れた。
「シャド・・・」
「なんだ」
「いや、何でも」
確かめるように呼んだ名に、返事が来た事にひどく安堵した。
(寂しいとか悲しいとは違う、お前が近くに居ないと調子が狂うんだ。)
(2013/08/14)
元拍手のおまけ。