私は、シャドウが好きだった。
そう”だった”。過去形だ。
暗闇に、黒い影一つ、消えそうなその姿を見つけられたのはやっぱり私にとって彼が特別だからだろう。
ゆらゆらと揺れる焚火の炎。その光に合わせて彼の姿も現れたり、消えたり。
夜風に炎がたなびいて、より赤く大きくなった。その明るさに照らされて、シャドウと私がはっきりと闇に浮かんだ。
一瞬目が合って、リズかなんて、私の名をこぼした声だけで舞い上がってしまいそうになった。
「寝れないの?」
でも、そんなことをおくびにも出さず私は笑いかけた。シャドウは黙ったまま答えないけれど、いつもの事なのでスルーした。
間近で彼を見れただけでラッキーだ。
寝ずの番も悪くはないな、笑った表情はそのまま、伸びを一つ。あと一時間でティナと交代の時間だ。
彼女はきちんとした性格だから、約束の時間の五分前には目を覚ましてテントから出て来るだろう。つまりシャドウと二人でいられるのは後五十五分間。
彼に恋をしたきっかけなんて覚えていない。
元々シャドウは裏社会に明るくない私でも知っている程度に名の知れた暗殺者で、始めは怖いとさえ思っていた。
彼は何も語らない、覆面に覆われた顔に表情さえ垣間見ることできない、彼については何もわからない。
しかし、彼は優しかった。
戦闘でかばってくれた、悩めば助言をしてくれた、そして世界を救うために戦っていた。
かっこいいと憧れを感じた。
ふいに夜風が止み、火の縮小に合わせ闇が広がり、シャドウはまた消え始める。シャドウ、言いながら手を伸ばした。まだ後三十分はあった。
闇に間合いを図り損ね、空をつかんだ。
「やめておけ」と、今度は独り言ではないシャドウの言葉。
話しかけられたのも随分久しぶりだったので、とっさに答えることができず、シャドウを無視をしたような形になってしまった。
それにしても、何をやめろと言っているのか。触ろうとしたことかだろうか。彼は夜目も効くのかと、変に関心をしてしまう。
「やめておけ」
もう一度言われた。
そして、その言葉で、ぴしゃりと冷や水を浴びせられたように、私は動くことができなくなってしまった。
つはり、彼は私の思いも伸ばした手の意味も理解し、言った言葉だと気づいてしまったからだ。
「俺は死人だ」
嘘つき、思わず言って立ち上がる。
彼は何も語らない、覆面に覆われた顔に表情さえ垣間見ることできない、彼については何もわからない。
―――でも知っていた。
彼は優しい。
戦闘でかばってくれた、悩めば助言をしてくれた、そして世界を救うために戦っていた。
そして、大切な誰かがいることも。
服の下に隠されたロケットも、グローブの下にはめられた指輪も、―――そんな風に誰かを想う人間のどこが死人だというのか。
愛してほしいと望んでたわけではないけれど、あまりにも。
「シャドウは死人じゃないよ」
もうすぐティナが起きて来る。いらない心配を彼女にはかけたくない。
彼から視線をはずすと、小さくなった火が消えないように薪をくべた。
(2017/04/17)
そう”だった”。過去形だ。
星空のパヴァーヌ
暗闇に、黒い影一つ、消えそうなその姿を見つけられたのはやっぱり私にとって彼が特別だからだろう。
ゆらゆらと揺れる焚火の炎。その光に合わせて彼の姿も現れたり、消えたり。
夜風に炎がたなびいて、より赤く大きくなった。その明るさに照らされて、シャドウと私がはっきりと闇に浮かんだ。
一瞬目が合って、リズかなんて、私の名をこぼした声だけで舞い上がってしまいそうになった。
「寝れないの?」
でも、そんなことをおくびにも出さず私は笑いかけた。シャドウは黙ったまま答えないけれど、いつもの事なのでスルーした。
間近で彼を見れただけでラッキーだ。
寝ずの番も悪くはないな、笑った表情はそのまま、伸びを一つ。あと一時間でティナと交代の時間だ。
彼女はきちんとした性格だから、約束の時間の五分前には目を覚ましてテントから出て来るだろう。つまりシャドウと二人でいられるのは後五十五分間。
彼に恋をしたきっかけなんて覚えていない。
元々シャドウは裏社会に明るくない私でも知っている程度に名の知れた暗殺者で、始めは怖いとさえ思っていた。
彼は何も語らない、覆面に覆われた顔に表情さえ垣間見ることできない、彼については何もわからない。
しかし、彼は優しかった。
戦闘でかばってくれた、悩めば助言をしてくれた、そして世界を救うために戦っていた。
かっこいいと憧れを感じた。
ふいに夜風が止み、火の縮小に合わせ闇が広がり、シャドウはまた消え始める。シャドウ、言いながら手を伸ばした。まだ後三十分はあった。
闇に間合いを図り損ね、空をつかんだ。
「やめておけ」と、今度は独り言ではないシャドウの言葉。
話しかけられたのも随分久しぶりだったので、とっさに答えることができず、シャドウを無視をしたような形になってしまった。
それにしても、何をやめろと言っているのか。触ろうとしたことかだろうか。彼は夜目も効くのかと、変に関心をしてしまう。
「やめておけ」
もう一度言われた。
そして、その言葉で、ぴしゃりと冷や水を浴びせられたように、私は動くことができなくなってしまった。
つはり、彼は私の思いも伸ばした手の意味も理解し、言った言葉だと気づいてしまったからだ。
「俺は死人だ」
嘘つき、思わず言って立ち上がる。
彼は何も語らない、覆面に覆われた顔に表情さえ垣間見ることできない、彼については何もわからない。
―――でも知っていた。
彼は優しい。
戦闘でかばってくれた、悩めば助言をしてくれた、そして世界を救うために戦っていた。
そして、大切な誰かがいることも。
服の下に隠されたロケットも、グローブの下にはめられた指輪も、―――そんな風に誰かを想う人間のどこが死人だというのか。
愛してほしいと望んでたわけではないけれど、あまりにも。
「シャドウは死人じゃないよ」
もうすぐティナが起きて来る。いらない心配を彼女にはかけたくない。
彼から視線をはずすと、小さくなった火が消えないように薪をくべた。
(2017/04/17)