漆黒の新月が輝く日
事の始まりは数か月前まで遡る。初めてあった時、シャドウが連れていたインターセプターと言う犬が私に懐いて、彼は驚いたように私を見た。その時だったのかしら?ううん、違う。本当は何がきっかけかなんて覚えていないの。
ただね、なんとなくあなたが私の、父と呼ばれる存在だった、そんな気がしたの。
一番古い幼い日の記憶だった。
ママが死んでしまって、パパと私とおじいちゃんと三人になった―――パパはずっと外にあったママのお墓を眺めていた。そして、突然パパは居なくなってしまった。
私がそれを思い出したのは、シャドウが月を眺めている姿があの日のパパにそっくりだったから。
深夜の飛空艇の甲板で、あの日のようにシャドウはずっと黙っていた。話しかけようかとそう思った、すんでのところで私は扉の陰に隠れた。その隣を、鮮やかな金色が通り過ぎた。
ママや私に似た色の人はシャドウの後ろに座った。シャドウの連れて来た金色の名を持つ盗賊だった。
「・・ずるい」
―――パパ!
記憶の中で私がパパを探して泣いてる。
「きれいだねぇ」
うっすらと笑って金色が言う。
「・・・酔っているのか」
答えたシャドウがうっすらと笑った。私は驚いて、とても泣きそうになった。
だって、記憶の中のパパはいつも嘆いていたから。
「・・・シャドウ」
きっとシャドウはパパじゃない。―――パパなんかじゃない。
そうじゃないとあんまりにも私が可哀想だわ。
「リズ!シャドウ!まだ起きてるの!?明日も早いのよ!」
たっと扉の陰から姿を現して、二人を驚かせる。シャドウは少しだけ驚いたような表情をした後、覆面を上にずりあげた。
―――いいのよ、シャドウ。
シャドウは、シャドウなんだから、楽になっていいの。そうしたら私も幸せになるわ。
(2020/05/02)
元拍手のおまけ。