Eternal Oath

薄暗い部屋、一つだけ置かれた燭台が唯一ぼんやりと辺りを照らした。

「・・・はあ」

時折漏れる熱っぽい吐息は、この部屋にはひどく不釣り合いだ。もっとも、そんな事考える余裕など今や涼香にはなかった。
只々、この異常な空間に身を任せるだけ。

「”にゃんにゃんしよ?”」-前-


始まりは女性死神協会だった。いつものように、会議がそのまま雑談へと姿を変えた時だった。
口火を切ったのはやはり、松本だったように思う。

「ねぇ、涼香って処女?」
「何を言っているんですか!」

「だって気になるじゃない」

それまで松本の付近で話されていた猥談の矛先が涼香へと向かった。それを咎めるような声が上がるが、松本が止まるはずもない。
涼香は縋る様にネムを見つめるが、眉根を下げ首を振られた。しかたない。そう溜息をついた。

松本の問いに、肯定の意を唱えると、松本は満面の笑顔になる。近づくと少し酒の匂いがするあたり、彼女は酒を飲んでいたのかもしれない。
兎に角、水を得た魚の様に元気になった彼女は、自身の体験や、男の誘い方、様々なことを延々と話し始めた。

涼香なら”にゃんにゃんしよ?”くらい言ってもイけると思うわ」
「にゃんにゃんってなにー?」

「やちる副隊長になにきかせてるんですか」
「えー?」「にゃんにゃんってなにー?」


―――………・・・


いつものように、コロンとマユリの布団に横になって。涼香は昼の会話を思い出す。
松本は性交をいいものの様に言っていた。しかし、涼香の知るそれは男の欲望を焦るために行われるもので。愛しているだとか好きだとかそんなものでするものではなかった。

涼香の出身である八十番地区において、涼香が処女でいられたのは彼女が強いからに他ならない。
ちらり、マユリを見上げ燭台に照らされる顔を観察する。実験結果でも書いてあるのだろう。阿近から手渡された書類を眺めている。
その表情はいつもの様に笑うでもしかめるでもなく真剣で、それは涼香の好きな表情の一つだった。

書類をしまった音を確認すると、涼香は顔を枕に埋めた。


「”にゃんにゃんしよ?”」


松本の言葉を枕に零した。言い切ると少しおもしろくて、苦笑いで枕から顔を上げる。
”なんちゃって”そう言おうと思っていたのに、マユリの表情に口ごもる。

書類に向けていたのと同じ顔を涼香に向けていた。
一歩、二歩。すぐそばに敷かれていた布団はそう遠くない。


「マユリちゃん・・・?」


音も立てず、涼香の横に手がおかれた。目の前には無表情なままのマユリの顔。
うろたえる涼香に、にやりとマユリが嗤う。


「お前がいったんじゃァないかネ」
「いや、冗談・・・だったんだけど」

「宿泊料とでも思って、諦めたまえヨ」


その言葉に、涼香は諦めた様に目をつむった。怖いとか嫌だとかそんなことは浮かばない。マユリがしたいと言うのならそれで良いような気がしたのだ。


「・・嫌ではないよ

優しくしてね?」


そんな月並みなセリフを吐いて、涼香は笑った。



(2014/12/01)
つづきはR-18です。