Eternal Oath

―――君は知らない。


―――君を生み出す(つくる)のに、一人の男が持てるすべての技術を注いだことを。

―――そして、君の誕生を望んだ女が居たことを。

君の知らないパッピーバースディ


「かーわーいーいー」
「ふん、あたりまえだヨ」
「本当に凄いよね!
私の希望通りだし。かわいいなぁ」

水色の髪の女は、横たわる女性用義骸の体をつんつんとつついた。まだ、魂の入っていないそれは身じろぐことは無い。
十二番隊長と技術局局長を兼任しているその男は、その姿を目を細めて見る。


「この子強くなるかな」
「決まっているだろう
・・・・私の娘なのだからネ」


だよね。楽しみだなぁと、女は呟く。その表情は酷く楽しそうだ。
それを見つめる男も、珍しく他意のない楽しそうな表情を顔に浮かべた。それは、この実験がうまくいったからなのか、それとも喜ぶ女の表情を見てなのか。それは、分らない。

男は、女と自身の娘から視線を外すと机に向かう。義骸の中へ入れる魂魄の作成があるからだ。
やはり、従順でうるさくないのがいい。そう考え男は作業に入った。



***



それから、一か月ほどが経ったころ。魂魄も完成し、後は義骸に入れるだけとなっていた。
相変わらず裏口から、技術局へと侵入した女はその瞬間に目を輝かさせる。


「この子は、本当に今日が誕生日になるんだねぇ」


感慨深そうな言葉。奇しくも今日は、彼らの誕生日だと決めた日であった。
女の言葉には反応せず、男は義骸に魂魄を入れる作業を始める。


僅かな静寂。


「ぁ」


思わず零した女の声と共に、ピクリと義骸の瞼が動く。そして、ゆっくりと義骸は眼を開いた。
驚いた様なそんな笑顔で、女は男を振り返る。


「マユリちゃん、見て見て!動いた!」
「うるさい・・・見ればわかるヨ」


鬱陶し気な言葉。しかし、少しの安堵と歓喜を含んでいた事に女は気付いた。
「眠七号」発せられた言葉が自らの名であることも分かっている。


「・・・なんだネ」
「なんでもないー」


くすくすと笑う女に、男は眉間にしわ寄せる。女はそれを受け流し話題を変えた。


「ねぇ、マユリちゃん
この子、名前決まってるの?」
「・・・決まっては、ないネ
お前が着けるといいヨ、涼香


予想外の言葉に女は驚く。そして、暫く悩んだ後一つの案をだす。


「カタカナで”ネム”
―――涅 ネム」

ねむりななごうだから。と、笑う女。
変わった名前をもつ”父親”とも合うだろう。
男もホウと感心する。


「悪くはない」
「ほんと!?」


「いいカ!お前の名前はネムだ!涅ネムだヨ!!」


指を差し、目覚めたばかりの義骸にそう告げると―――

「はい
マユリ様」

ーーー落ち着いた声で、義骸(ネム)は答えた。
それが、彼女の産声だった。


(2015/07/11)
(2023/12/03訂正)