Eternal Oath

「マユリちゃんいる?」

ひょこりと顔を出したのは、リンが初めて見る死神だった。

「リンちゃん、はじめまして」


「局長ですか?」
「うん」

局員しか知らないはずの裏口を使い入ってきた死神は、さも当然のようにリンに聞いた。
マユリが研究材料を探しに現世へいっている事は知っていたが、この女を案内していいものか、リンは悩み口ごもる。そんな二人、―――もとい、目立つ水色に阿近が気付き近寄る。


水原さん何やってるんすか?」
「あ!アコちゃん!
マユリちゃんいる?」
水原と呼ばれた死神は、にっこりと笑顔を浮かべた。

「局長なら現世に「水原・・・水原四席!?」・・・壷倉」

リンはその名に覚えがあった。確か十一番隊の四席が同じ名だったはずだ。あまり他の隊に興味を示さない傾向のある技術局で、彼女の名前はよく出てきた。
しかし、話半分に聴いていたため彼女の特徴である水色の髪や目を見てもすぐには思い出せなかったのだ。本当に水色なんだと今更ながらにリンは思う。


「あれ?
そっか、初めましてだ!」

特徴的な水色が大きく見開かれる。

「確か、壷倉リン・・ちゃんだよね?」
「はい 」
「よろしくね」

にへらと笑うその顔に、リンもつられて笑う。

水原さん、局長なら現世行ってますよ」
「えー、じゃあ此処で待っててもいい?」
「いいですよ」

ありがとー。笑顔はそのまま阿近の頭を涼香は撫ぜた。その手をはしと掴み俺を殺す気ですかと、呆れたように阿近が言う。
くるりと、彼女の顔がリンへと向かった。

「リンちゃんはさ、どんな研究してるの?」

その問いかけはリンにとって初めてのものだった。新人であるリンの行っているものはマユリや阿近はおろか、技術局の誰よりも拙いものであるので、誰も興味などもってくれなかったのだ。それを嬉しく思うと同時に、十一番隊でありながら技術局を馬鹿にしない彼女を好ましく思った。
じゃあ宜しくなと、短く声をかけ阿近は自身の研究室へ戻って行く。


そして、リンはゆっくりと自身の研究について話し始めた。


面白いと相槌を打つ彼女に話すのはリンにとってとても楽しい時間であり、涼香にとってもマユリが来るまでの暇つぶしに丁度良い時間であった。

涼香さんは
よくここにいらっしゃるんですか?」
すっかり仲良くなったリンが問う。
「うん、でも秘密だよ」
「なんでですか?」
「周りがね、煩いから」
確かに十一番隊員である彼女が技術局へ入り浸っていたら周りはうるさいであろう、そう納得をしリンは頷く。


そこで、リンの記憶は途絶えている。


* * *


「う・・・ん?」
「目ぇ覚めたか」

リンがピリピリとした感覚に目を覚ますと、こちらを見下ろす阿近の視線とかち合った。


「僕は・・・?」


涼香と楽しく話をしていたところまで覚えている。そして、その後マユリが帰ってきて・・・



蹴り飛ばしたかのように大きな音を立てて研究室のドアが開いた。入って来た人物を見、反射的にリンは直立する。

「何をしているのかネ、涼香
「きょ、局長!お疲れ様です!!」
「おかえりー」

そんなリンには目もくれず、マユリはつかつかと涼香の元へと近づいた。


「マユリちゃんを待ってたんだよ」


やはりへらりと笑った涼香の顔を見、マユリは舌打ちを一つしてリンを振り向く。まっすぐと自分を捕らえた視線にリンは怯えたのを覚えている。
「壺倉」「はっはいぃ!」―――声が裏返ってしまうのもしかたのないことだろう。

「これを飲みたまえよ」
差出されたのは透明な液体。
戸惑っていると、「何度も言わせるんじゃないヨ!」と怒鳴り声が響き、彼の機嫌が悪いのを思い知る。ええい!もうどうにでもなれとリンはその液体を飲み干した―――そして、現在に至るのだ。




「僕・・・「次はねぇぞ」」

合点の行ったリンにかけられた言葉は、リン自身身に染みている。あの時のマユリの目は、虚にすらほとんど向けられたことのない敵を見るものだった。
どうしてそんな目を向けられたのか―――。


すず・・・水原さんって?」


リンの問いかけに阿近が答えることはなかった。もう二度と”涼香さん”なんて呼ばないとリンは思った。


(2016/10/10)