世界が崩壊した翌日に、グレイグが海岸で見つけたのは一人の女だった。ボロボロになったローブは海水に濡れ、もう防具としての役目を果たしていない。
「む・・・」
体温を奪うだろう濡れたローブを取り去ると、存外に美しい女であると分かった。主君の娘と同じ見事な黒髪だったからか、彼女に似たものを感じ丁寧な手つきで馬上へと抱えあげた。
願わくば、彼女、マルティナも無事生きていますように。
リィオが目を覚ますと知らない天井が広がっていた。
大樹に異変が起こり、アリスを船上に避難させた所までははっきりと覚えている。
「目を覚ましたのか」
英雄、グレイグ。デルタカールの将軍でイレブンを敵視する者、そこまで思い出した。しかし、状況を見る限りどうやらリィオはこの男に救われたらしい。いままでの話を聞いていて思うことがないと言えば嘘になるが、ずっと船の方にいたリィオは直接害を加えられたことはなく。むしろこうして助けられてさえいるのだから、感謝の念を抱くよりほかにない。
「すまない。ありがとう」
「いや、」
えらく歯切れの悪い返答であった。
彼が語った所によると、大樹が落ちて以来魔物の動きが活発化し、デルカダール城は乗っ取られ王共々天然の要塞となっているこの地まで敗走してきた。これ以上の被害を抑えるために猫の手でも借りたいと言うのが実情のようだ。
つまりは、剣を持っているリィオにも多少は戦ってほしいという事だった。
「分かった」
彼と、ここの人々には命を救ってもらった恩義があった。
そして、どのみち魔物をどうにかしなければどこにも行けない。
そうして共に戦うことになったのだが、リィオにとって予想外に彼は、と言うよりも彼らはもう勇者に対する敵対心をもっておらずすんなりと彼女を受け入れた。グレイグが生存者を探している間砦を守ってくれる彼女の存在は大きく、回復魔法も使えるという事で彼女の役目は多い。
自然、グレイグとの会話も増えたある日のこと。夜間の見張りをグレイグと交代するときであった。
「ところで、リィオずっと気になっていたのだが」
「ん?」
見張りの交代に来たんだから、さっさと休めよ。
「お前、もしや幻の傭兵か」
いや、そんな人物知らないが。
首をかしげると、その幻とやらが参加した戦を教えられリィオのことだとわかる。そんな名で呼ばれていることなど、初耳であった。
「まさか、女だったとは」
「・・・そう言われることが増えたから顔かくしてたんだよ
安く買い叩かれる」
傭兵は命を売る職業で、値引きなんかとんでもない。
「いや、そう言うつもりでは」
責めたわけではないのだが、罪悪感を覚えたグレイグは頭を下げ始める。それがなんとも彼らしく、リィオは可笑しくなってしまう。
「なぜ笑う」
「いいや、お前らしいなって思ってな
ほら、気にしなくていいから。さっさと休め」
その後リィオは、グレイグが勇者を見つけてくるまで二人は共闘を続け、二人の英雄とまで言われるようになるのだが、それはまだ先の話である。
(2017/08/28)
「む・・・」
体温を奪うだろう濡れたローブを取り去ると、存外に美しい女であると分かった。主君の娘と同じ見事な黒髪だったからか、彼女に似たものを感じ丁寧な手つきで馬上へと抱えあげた。
願わくば、彼女、マルティナも無事生きていますように。
幻の傭兵
リィオが目を覚ますと知らない天井が広がっていた。
大樹に異変が起こり、アリスを船上に避難させた所までははっきりと覚えている。
「目を覚ましたのか」
英雄、グレイグ。デルタカールの将軍でイレブンを敵視する者、そこまで思い出した。しかし、状況を見る限りどうやらリィオはこの男に救われたらしい。いままでの話を聞いていて思うことがないと言えば嘘になるが、ずっと船の方にいたリィオは直接害を加えられたことはなく。むしろこうして助けられてさえいるのだから、感謝の念を抱くよりほかにない。
「すまない。ありがとう」
「いや、」
えらく歯切れの悪い返答であった。
彼が語った所によると、大樹が落ちて以来魔物の動きが活発化し、デルカダール城は乗っ取られ王共々天然の要塞となっているこの地まで敗走してきた。これ以上の被害を抑えるために猫の手でも借りたいと言うのが実情のようだ。
つまりは、剣を持っているリィオにも多少は戦ってほしいという事だった。
「分かった」
彼と、ここの人々には命を救ってもらった恩義があった。
そして、どのみち魔物をどうにかしなければどこにも行けない。
そうして共に戦うことになったのだが、リィオにとって予想外に彼は、と言うよりも彼らはもう勇者に対する敵対心をもっておらずすんなりと彼女を受け入れた。グレイグが生存者を探している間砦を守ってくれる彼女の存在は大きく、回復魔法も使えるという事で彼女の役目は多い。
自然、グレイグとの会話も増えたある日のこと。夜間の見張りをグレイグと交代するときであった。
「ところで、リィオずっと気になっていたのだが」
「ん?」
見張りの交代に来たんだから、さっさと休めよ。
「お前、もしや幻の傭兵か」
いや、そんな人物知らないが。
首をかしげると、その幻とやらが参加した戦を教えられリィオのことだとわかる。そんな名で呼ばれていることなど、初耳であった。
「まさか、女だったとは」
「・・・そう言われることが増えたから顔かくしてたんだよ
安く買い叩かれる」
傭兵は命を売る職業で、値引きなんかとんでもない。
「いや、そう言うつもりでは」
責めたわけではないのだが、罪悪感を覚えたグレイグは頭を下げ始める。それがなんとも彼らしく、リィオは可笑しくなってしまう。
「なぜ笑う」
「いいや、お前らしいなって思ってな
ほら、気にしなくていいから。さっさと休め」
その後リィオは、グレイグが勇者を見つけてくるまで二人は共闘を続け、二人の英雄とまで言われるようになるのだが、それはまだ先の話である。
(2017/08/28)