初恋の話
「私の初恋は、近所に住んでたお兄さんなの」
ある日のキャンプでの出来事であった。女同士、男性たちと別のテントで始まったのは、初恋についての話であった。
マルティナの、初恋はまだだという衝撃的な発言からそれは始まった。セーニャとベロニカは魔法の先生が初恋で、初恋も一緒だったんだと顔を突き合わせて笑っていた。それをいいなぁと眺めたマルティナが、リズはと話題をふったのだ。
「へぇ、案外普通ねぇ」
セーニャからリズへと視線を移したベロニカは感想をもらした。勇者の姉は、さぞかしドラマチックな体験をしてきたのではないかと思っていたのだが、そんなことはなさそうだ。
それを言ったらベロニカちゃんたちだって、そう抗議をされてはぐうの音もでない。
「どのような方だったのですか?」
うっとりと、脱線しかけた話題をセーニャが戻す。
うーんとか、あのね、とか少しばかり戸惑うリズの頬はほんのり朱に染まっているように見えた。あら珍しい、そうベロニカは思う。
マルティナと同年代の彼女は普段は冷静で、焦る様子を見せることはめったにない。シルビアやマルティナもそうであり、こればかりは年の差かしらとベロニカはため息一つ。天才魔導士様にも、ままならないことがあるわけよ。
「ゴリアテちゃんって言う人で、シルビアさんみたいな人だった」
背が高くて、優しくて、かっこよくて。抽象的な表現は、先ほどセーニャの語った魔法の先生に似ている。
やっぱりこういうのってみんな同じなのね。親近感にベロニカは笑みを浮かべた。
「だからシルビアさんの事好きなんだ?」
「そ、れは」
真っ赤になって、リズが口ごもった。それが何よりもはっきりした返事だった。
それも分かりきったことだったけど。
「え?そうなの?」
「そうなのですか?」
わかってない人たちもいるわけで。
まったく鈍感なんだから。ベロニカはもう一度ため息をついた。
(2019/07/03)