「ご主人様、お手紙が届いております」
ジエーゴは差し出された手紙を引ったくるように受け取ると、ふっと笑みをこぼした。それから、自らの行動に舌打ちを一つ、眉間にシワを寄せ、誰もいれるなとセザールに命を下すと自室に入っていった。
騎士たるもの常に冷静であれ。そんな言葉が聞こえてきそうなジエーゴの行動に、セザールも思わず笑みを溢して、”セザールちゃんへ”と書かれたもう一通の手紙を取り出した。
手紙には、弟が成人すること、そして弟と共に旅に出ることがかかれていた。ソルティコにも行けるかもしれない、そして、旅の途中ゴリアテにだって会えるかもしれないと。そこまで読んだところでジエーゴの部屋から、何かを倒した音が響いたので、彼の手紙にも同じようなことが書いてあったのだろう。吹き出しそうになったのを、執事の矜持が押さえ込む。
ご主人様、あの方がいなくなってから、この家が可笑しくなってしまった気がしてならないのです。
「「ロア、おいで」」
「うん!」
とてとて。
危なげな足取りで、ロアと呼ばれた少女は騎士見習いの青年達のもとへと歩いてきた。
騎士見習いはジエーゴの息子と、デルカダールの青年で、少女はジエーゴの親友の娘。妻が亡くなり塞ぎ込んでいる父親の代わりにジエーゴが面倒を見ている少女であった。
まだ幼く母親の死をわかってはいないのだろう明るい子。
「もう訓練終わったの?」
その一方で、遊びたい気持ちを押し殺しておずおずと伺うようなよく気のきく子供であった。
ゴリアテは彼女を抱き上げ、じゃあ遊ぼうかと笑いかけた。子供の相手が苦手なグレイグの代わりにそう提案するのはいつだって彼の役目であった。
尊敬していた騎士の死を聞いたのはその数日後の事だった。デルカダールに仕えており、二人が兄とも師とも慕う人物であった。
「ぐぅ・・・っ」
「泣くなよ」
家族のいない彼の葬儀は、ジエーゴが喪主となり執り行われた。堪えきれずに涙を流すグレイグのとなり、ゴリアテはその端正な眉を寄せるだけ、ジエーゴの息子としてみっともなく泣くわけにはいかなかった。
立派であった、優しかった、強かった、過去形の声があちらこちらから聞こえる。うるさいと、思った。ゴリアテの良く知る事実だけが聞こえてくる。
「俺の目標だったのに」
思わずグレイグを睨み付ける。
「あいつは、騎士だった」
二人の肩に手をおいて慰めるジエーゴも、今は鬱陶しいだけだ。
「ゴリアテちゃん」
ロアが、しかめ面をしたゴリアテの手をひっぱった。分かっているのかいないのかちょっとだけ眉をハの字に曲げて、見上げている。
「どうした?」
「あそぼ?」
ああ、やっぱり分かっていない。あの騎士が死んだことも、何もかも。愉快に思ったゴリアテは少しだけ表情を緩めて、彼女の手をとった。
彼女と遊ぶ方がここにいるより数倍マシだ。はにかむ様に笑った顔はいつもよりもかわいく見えた。
「何がしたい?」
「おりがみ!鳥ちゃんおるの!」
戸惑いながらこちらを見たジエーゴ達を振り返らず、ゴリアテは笑いかけた。
(2017/10/09)
ジエーゴは差し出された手紙を引ったくるように受け取ると、ふっと笑みをこぼした。それから、自らの行動に舌打ちを一つ、眉間にシワを寄せ、誰もいれるなとセザールに命を下すと自室に入っていった。
騎士たるもの常に冷静であれ。そんな言葉が聞こえてきそうなジエーゴの行動に、セザールも思わず笑みを溢して、”セザールちゃんへ”と書かれたもう一通の手紙を取り出した。
手紙には、弟が成人すること、そして弟と共に旅に出ることがかかれていた。ソルティコにも行けるかもしれない、そして、旅の途中ゴリアテにだって会えるかもしれないと。そこまで読んだところでジエーゴの部屋から、何かを倒した音が響いたので、彼の手紙にも同じようなことが書いてあったのだろう。吹き出しそうになったのを、執事の矜持が押さえ込む。
ご主人様、あの方がいなくなってから、この家が可笑しくなってしまった気がしてならないのです。
00.大樹の欠片
「「ロア、おいで」」
「うん!」
とてとて。
危なげな足取りで、ロアと呼ばれた少女は騎士見習いの青年達のもとへと歩いてきた。
騎士見習いはジエーゴの息子と、デルカダールの青年で、少女はジエーゴの親友の娘。妻が亡くなり塞ぎ込んでいる父親の代わりにジエーゴが面倒を見ている少女であった。
まだ幼く母親の死をわかってはいないのだろう明るい子。
「もう訓練終わったの?」
その一方で、遊びたい気持ちを押し殺しておずおずと伺うようなよく気のきく子供であった。
ゴリアテは彼女を抱き上げ、じゃあ遊ぼうかと笑いかけた。子供の相手が苦手なグレイグの代わりにそう提案するのはいつだって彼の役目であった。
尊敬していた騎士の死を聞いたのはその数日後の事だった。デルカダールに仕えており、二人が兄とも師とも慕う人物であった。
「ぐぅ・・・っ」
「泣くなよ」
家族のいない彼の葬儀は、ジエーゴが喪主となり執り行われた。堪えきれずに涙を流すグレイグのとなり、ゴリアテはその端正な眉を寄せるだけ、ジエーゴの息子としてみっともなく泣くわけにはいかなかった。
立派であった、優しかった、強かった、過去形の声があちらこちらから聞こえる。うるさいと、思った。ゴリアテの良く知る事実だけが聞こえてくる。
「俺の目標だったのに」
思わずグレイグを睨み付ける。
「あいつは、騎士だった」
二人の肩に手をおいて慰めるジエーゴも、今は鬱陶しいだけだ。
「ゴリアテちゃん」
ロアが、しかめ面をしたゴリアテの手をひっぱった。分かっているのかいないのかちょっとだけ眉をハの字に曲げて、見上げている。
「どうした?」
「あそぼ?」
ああ、やっぱり分かっていない。あの騎士が死んだことも、何もかも。愉快に思ったゴリアテは少しだけ表情を緩めて、彼女の手をとった。
彼女と遊ぶ方がここにいるより数倍マシだ。はにかむ様に笑った顔はいつもよりもかわいく見えた。
「何がしたい?」
「おりがみ!鳥ちゃんおるの!」
戸惑いながらこちらを見たジエーゴ達を振り返らず、ゴリアテは笑いかけた。
(2017/10/09)