成人の義を終えた夜、イレブンは自らの出生の秘密を知った。彼が勇者の生まれ変わりだという事実を告げたのは、育ての母と血の繋がらない姉であった。
「イレブンだけを辛い目には会わせないよ
私も一緒に行くから」
イレブンは言われて、はたと気づいた。成人して以来、姉はナイフに魔法にと、村での生活には到底必要とは思えない訓練を始めていた。それは姉が常日頃から言っていた、生まれた町にいくためだとばかり思っていたが、よもや自分のためとは思わなかった。きっとその時から、自分が勇者だと聞いていたのだろう。
その時イレブンは、世界よりも姉だったり母だったりのため旅立とうと決心した。世界に危機が迫っていて、自分しか救えないのなら、この優しい家族や大好きな村のために戦おうと思った。
その決心が揺らいだのは、出発してから僅か二日足らずの事だった。
イシの村からデルカダールへは実はそんなに遠くはない。徒歩の行商人ですら二日三日でたどり着くような距離であるから、村から馬にのって来た二人は村をたった翌日には城下町へと入っていたのだ。
田舎者らしくキョロキョロと城下町をうろついて、迷ったりしながらたどり着いた城で勇者様なんて煽てられ、あれよあれよと言う間に連れてこられた王座にて二人は槍を突きつけられた。
「待って!」
庇うため躍り出たのはイレブンの姉であるロアだった。
「まて」
じりじりと迫るデルカダール兵の槍先に、まったをかけたのは黒い鎧の大男。本当に一瞬、イレブンではなくロアの方を見て、王の前で血を流すなと二人を牢へと入れた。
そんなわけで、出発早々イレブンの覚悟はバキバキにへし折られた訳であるが、村に帰るにしたって牢を抜けなければどうしようもない。
世界?そんなの知らん。勝手にやって欲しい。
鉄格子を蹴ったり、揺らしたり、やさぐれぎみに暴れながらイレブンは思った。
「メラ!」
「―――無駄だぜ」
牢に入れられた程度で騒ぎ立てるなと、向かいの牢から声がした。フードを被った細身の男が呆れたようにイレブンたちを見る。
「なにもしてない!ただ勇者だって名乗っただけだ!!」
「イレブン!」
ロアが止めたのはまた悪魔の子と害されるのではないかと考えたからだった。
「勇者?勇者様?」
男はうわ言のように何回か繰り返した。そして、勇者様と同じ牢とはと呟くと、何やらひどくうろたえた様子で、ここから出してやるような事を一言言った。
むろん両手をあげて喜べるような話ではない。牢に入っていると言うことは犯罪者であるし、何よりフードを被った男は顔すらも見えなかった。
「よろしくお願いします」
それでも、を悪魔の子ではなく勇者と呼んだこの男に着いていこうとロアは決めた。
ロアが決めたから、イレブンも着いていくと決めた。けっして勇者様と呼ばれ胸がすいたとかそんな理由ではない。
ただ少し、ほんの少しだけ、心が軽くなった。
いわれなき罵倒を受けても傷つかないほどイレブンは大人ではないのだから。
男が兵から奪った鍵で牢の扉を開けた。
牢から出る一歩。
「イレブン。私も一緒に行くから」
村を出たときと同じ台詞の姉。
本当の冒険はここから始まる気がする。
「ありがとう、姉さん」
この先何があっても進もうとそう覚悟した。
(2017/12/05)
「イレブンだけを辛い目には会わせないよ
私も一緒に行くから」
イレブンは言われて、はたと気づいた。成人して以来、姉はナイフに魔法にと、村での生活には到底必要とは思えない訓練を始めていた。それは姉が常日頃から言っていた、生まれた町にいくためだとばかり思っていたが、よもや自分のためとは思わなかった。きっとその時から、自分が勇者だと聞いていたのだろう。
その時イレブンは、世界よりも姉だったり母だったりのため旅立とうと決心した。世界に危機が迫っていて、自分しか救えないのなら、この優しい家族や大好きな村のために戦おうと思った。
00.始まりの日
その決心が揺らいだのは、出発してから僅か二日足らずの事だった。
イシの村からデルカダールへは実はそんなに遠くはない。徒歩の行商人ですら二日三日でたどり着くような距離であるから、村から馬にのって来た二人は村をたった翌日には城下町へと入っていたのだ。
田舎者らしくキョロキョロと城下町をうろついて、迷ったりしながらたどり着いた城で勇者様なんて煽てられ、あれよあれよと言う間に連れてこられた王座にて二人は槍を突きつけられた。
「待って!」
庇うため躍り出たのはイレブンの姉であるロアだった。
「まて」
じりじりと迫るデルカダール兵の槍先に、まったをかけたのは黒い鎧の大男。本当に一瞬、イレブンではなくロアの方を見て、王の前で血を流すなと二人を牢へと入れた。
そんなわけで、出発早々イレブンの覚悟はバキバキにへし折られた訳であるが、村に帰るにしたって牢を抜けなければどうしようもない。
世界?そんなの知らん。勝手にやって欲しい。
鉄格子を蹴ったり、揺らしたり、やさぐれぎみに暴れながらイレブンは思った。
「メラ!」
「―――無駄だぜ」
牢に入れられた程度で騒ぎ立てるなと、向かいの牢から声がした。フードを被った細身の男が呆れたようにイレブンたちを見る。
「なにもしてない!ただ勇者だって名乗っただけだ!!」
「イレブン!」
ロアが止めたのはまた悪魔の子と害されるのではないかと考えたからだった。
「勇者?勇者様?」
男はうわ言のように何回か繰り返した。そして、勇者様と同じ牢とはと呟くと、何やらひどくうろたえた様子で、ここから出してやるような事を一言言った。
むろん両手をあげて喜べるような話ではない。牢に入っていると言うことは犯罪者であるし、何よりフードを被った男は顔すらも見えなかった。
「よろしくお願いします」
それでも、を悪魔の子ではなく勇者と呼んだこの男に着いていこうとロアは決めた。
ロアが決めたから、イレブンも着いていくと決めた。けっして勇者様と呼ばれ胸がすいたとかそんな理由ではない。
ただ少し、ほんの少しだけ、心が軽くなった。
いわれなき罵倒を受けても傷つかないほどイレブンは大人ではないのだから。
男が兵から奪った鍵で牢の扉を開けた。
牢から出る一歩。
「イレブン。私も一緒に行くから」
村を出たときと同じ台詞の姉。
本当の冒険はここから始まる気がする。
「ありがとう、姉さん」
この先何があっても進もうとそう覚悟した。
(2017/12/05)