目の前に村がある。
イレブンとロアの育った、イシの村だった。
美しい村だと聞いていた。
しかし、荒れ果てたこの村にその面影はない。
「おいっ!イレブン!!」
「大丈夫だよ、カミュくん」
ロアは、イレブンの目に写っている物が今自分達が見ている物のとは違うことを知っていた。
「大樹は過去を見せるの
勇者にね」
しゃがんでどこか遠くを見るようにロアは目を細めた。
いいなぁ。
ロアの言葉をカミュは拾うことができなかった。
二人の目の前には瓦礫の山が広がり、人気はない。視線の先にベッドの焼け残る民家、壊れた水車、濁った小川。
少し前までは緑にあふれた美しい村で、人々が笑顔で暮らしていた。
そして、イレブンは今その風景の中にいる。
勇者だけが、昔に戻ることができる。
イレブンはいつに戻っているのか、テオが生きていたころか、それとももっと前か。案外この村に来た日の時かもしれない。
ロアもイレブンも16年前にイシの村に来た。
ロアは預けられた先、貴族の夫妻が流行り病で亡くなり、孤児院に連れていかれそうになっていた。そんな折、うちの子になるかと、偶然街にきていたテオが村へと連れ帰った。
そして、その次の日イレブンも村へ来た。
まるでおとぎ話か何かのように川から流れてきた子、手に不思議な痣をもつその子を、テオは優しく迎え入れた。弟だとテオの娘ペルラに言われ、ロアは勇者の姉になった。
それがとても嬉しかったことを覚えている。
恐る恐る差出した手の、指先を小さな手が握ったこと、その温度。
「ロア。いいかい」
そんなロアへ、テオが屈んで言った。ロアは弟に夢中であった。熱すぎるくらい暖かい手のひらを、愛おしいと思った。
―――は、三角岩に埋めたから。イレブンが旅立つときに渡してあげるんだよ。
穏やかにそう言ったテオに、はぁいと生返事。
赤ん坊の顔を眺め、この子たちと家族になりたいと思った。
そう思った16年前の日のことをロアは、きちんと覚えていた。
「三角岩」
まっすぐ見つめた視線の先、壊れたイレブンとロアの家が見える。
「ロア?どうしたんだ?」
「イレブンの母親の手紙と鍵を三角岩の側に埋めたって」
カミュが怪訝な顔をする。突然なにを言い出すのか。
「は?」
「この先に祠があるでしょう?そこの鍵」
言われたのイレブンに渡してって。
デルカダールの端っこに、旅立ちの祠と呼ばれた場所があるのはカミュも知っていた。ただ、その扉は閉ざされておりもう使えないと言われている。だからカミュはデルカダールに船できた。あれが使えれば随分楽だったのになぁ。
ともかく、そこまでいけばデルカダールの追手は巻けるであろう。なんせ扉を使えば遠い土地へとワープすることができるのだから。
「決まりだな」
カミュの言葉にロアは頷く。
イレブンもそろそろ戻ってくるころだ。
(2018/09/06)
イレブンとロアの育った、イシの村だった。
美しい村だと聞いていた。
しかし、荒れ果てたこの村にその面影はない。
01.一葉の願い
「おいっ!イレブン!!」
「大丈夫だよ、カミュくん」
ロアは、イレブンの目に写っている物が今自分達が見ている物のとは違うことを知っていた。
「大樹は過去を見せるの
勇者にね」
しゃがんでどこか遠くを見るようにロアは目を細めた。
いいなぁ。
ロアの言葉をカミュは拾うことができなかった。
二人の目の前には瓦礫の山が広がり、人気はない。視線の先にベッドの焼け残る民家、壊れた水車、濁った小川。
少し前までは緑にあふれた美しい村で、人々が笑顔で暮らしていた。
そして、イレブンは今その風景の中にいる。
勇者だけが、昔に戻ることができる。
イレブンはいつに戻っているのか、テオが生きていたころか、それとももっと前か。案外この村に来た日の時かもしれない。
ロアもイレブンも16年前にイシの村に来た。
ロアは預けられた先、貴族の夫妻が流行り病で亡くなり、孤児院に連れていかれそうになっていた。そんな折、うちの子になるかと、偶然街にきていたテオが村へと連れ帰った。
そして、その次の日イレブンも村へ来た。
まるでおとぎ話か何かのように川から流れてきた子、手に不思議な痣をもつその子を、テオは優しく迎え入れた。弟だとテオの娘ペルラに言われ、ロアは勇者の姉になった。
それがとても嬉しかったことを覚えている。
恐る恐る差出した手の、指先を小さな手が握ったこと、その温度。
「ロア。いいかい」
そんなロアへ、テオが屈んで言った。ロアは弟に夢中であった。熱すぎるくらい暖かい手のひらを、愛おしいと思った。
―――は、三角岩に埋めたから。イレブンが旅立つときに渡してあげるんだよ。
穏やかにそう言ったテオに、はぁいと生返事。
赤ん坊の顔を眺め、この子たちと家族になりたいと思った。
そう思った16年前の日のことをロアは、きちんと覚えていた。
「三角岩」
まっすぐ見つめた視線の先、壊れたイレブンとロアの家が見える。
「ロア?どうしたんだ?」
「イレブンの母親の手紙と鍵を三角岩の側に埋めたって」
カミュが怪訝な顔をする。突然なにを言い出すのか。
「は?」
「この先に祠があるでしょう?そこの鍵」
言われたのイレブンに渡してって。
デルカダールの端っこに、旅立ちの祠と呼ばれた場所があるのはカミュも知っていた。ただ、その扉は閉ざされておりもう使えないと言われている。だからカミュはデルカダールに船できた。あれが使えれば随分楽だったのになぁ。
ともかく、そこまでいけばデルカダールの追手は巻けるであろう。なんせ扉を使えば遠い土地へとワープすることができるのだから。
「決まりだな」
カミュの言葉にロアは頷く。
イレブンもそろそろ戻ってくるころだ。
(2018/09/06)