白く、あたたかな記憶にいつだって彼女はいた。
友と別れた時。
故郷を思い出しているとき。
そんな時、気づけば彼女は側にいた。何も言わずクルクルと花を弄びながら、「グレイグちゃん」と笑って見せる。
そうすると、不思議と穏やかな気持ちになったのを覚えている。
そんなロアがデルカダールに来たと、そう知ったのはユグノアが滅びてすぐのこと。
彼女は俺が守るのだと、そうグレイグは彼女を探したが見つけることは出来なかった。
それでも、この国のどこかで幸せに暮らしているのだと思うと仕事にも身が入った。
そして今、目の前に悪魔の子とその仲間がいる。
あのような少年を捕らえるのは心が痛まないでもないが、あれは生きているだけで災いを呼ぶ存在なのだ。
悪魔を捕らえることが、デルカダールを守ることになり、ひいてはロアを守るれるのだ。
そう、信じていた。
「イレブン!」
「姉さん!」
グレイグが部下に打たせた矢が、悪魔の馬へ刺さった。落馬した彼を拾い上げたのは、姉と呼ばれた女だった。
そう、16年以上前に別れて、未だ探している少女(今はもう女性だろうか)に悪魔の姉はよく似ていた。
―――『まって』
そう言って悪魔を庇った女を、デルカダール城では切ることができなかった。
今度は同じ轍は踏むまい。悪魔を捕らえることが、デルカダールを守ることになり、ひいてはロアを守るのだと自分に何度も言い聞かせて。
グレイグは腰の剣を抜く。今度こそ、この国の平和を守るのだ。
グレイグの優秀な相棒は、徐々に悪魔との距離を詰める。
その先は、祠が一つあるだけの行き止まりだったはずだ。
「イレブン!あの石を!」
そう水色の神の男が声を張り上げると、悪魔は懐から石のようなものを取り出した。石は光を発し、それはまっすぐ祠へと延びた。
眩しさに思わず目を閉じる。すると、デルカダールの兵たちがどうしたって開かなかった祠の扉が開く。
「待て!」
思わずグレイグは叫ぶ。悪魔たちは振り向かず、代わりに水色の男が振り向いた。
彼の眼には、すぐ後ろに迫るグレイグたちの姿が移っただろう。
「イレブン!・・・ロア!早く!」
悪魔が入るとすぐ、祠の扉が閉まり始める。グレイグが目を見開き、慌てて手綱を引いた。
「・・・ロア」
どうして、ロアが悪魔の姉と呼ばれているのだ。
勇者の姉はロアによく似ている。
似ているにきまってる。だって彼女は―――、彼女は―――。
(2020/06/07)
友と別れた時。
故郷を思い出しているとき。
そんな時、気づけば彼女は側にいた。何も言わずクルクルと花を弄びながら、「グレイグちゃん」と笑って見せる。
そうすると、不思議と穏やかな気持ちになったのを覚えている。
02.散ったもの
そんなロアがデルカダールに来たと、そう知ったのはユグノアが滅びてすぐのこと。
彼女は俺が守るのだと、そうグレイグは彼女を探したが見つけることは出来なかった。
それでも、この国のどこかで幸せに暮らしているのだと思うと仕事にも身が入った。
そして今、目の前に悪魔の子とその仲間がいる。
あのような少年を捕らえるのは心が痛まないでもないが、あれは生きているだけで災いを呼ぶ存在なのだ。
悪魔を捕らえることが、デルカダールを守ることになり、ひいてはロアを守るれるのだ。
そう、信じていた。
「イレブン!」
「姉さん!」
グレイグが部下に打たせた矢が、悪魔の馬へ刺さった。落馬した彼を拾い上げたのは、姉と呼ばれた女だった。
そう、16年以上前に別れて、未だ探している少女(今はもう女性だろうか)に悪魔の姉はよく似ていた。
―――『まって』
そう言って悪魔を庇った女を、デルカダール城では切ることができなかった。
今度は同じ轍は踏むまい。悪魔を捕らえることが、デルカダールを守ることになり、ひいてはロアを守るのだと自分に何度も言い聞かせて。
グレイグは腰の剣を抜く。今度こそ、この国の平和を守るのだ。
グレイグの優秀な相棒は、徐々に悪魔との距離を詰める。
その先は、祠が一つあるだけの行き止まりだったはずだ。
「イレブン!あの石を!」
そう水色の神の男が声を張り上げると、悪魔は懐から石のようなものを取り出した。石は光を発し、それはまっすぐ祠へと延びた。
眩しさに思わず目を閉じる。すると、デルカダールの兵たちがどうしたって開かなかった祠の扉が開く。
「待て!」
思わずグレイグは叫ぶ。悪魔たちは振り向かず、代わりに水色の男が振り向いた。
彼の眼には、すぐ後ろに迫るグレイグたちの姿が移っただろう。
「イレブン!・・・ロア!早く!」
悪魔が入るとすぐ、祠の扉が閉まり始める。グレイグが目を見開き、慌てて手綱を引いた。
「・・・ロア」
どうして、ロアが悪魔の姉と呼ばれているのだ。
勇者の姉はロアによく似ている。
似ているにきまってる。だって彼女は―――、彼女は―――。
(2020/06/07)