Eternal Oath

出来の悪い妹をもつと兄ちゃんは大変だよな。
ロアイレブンはどうなのだろうと、カミュは思った。

03.双葉


旅立ちのほこらを抜けた先。そこには、温泉地帯が広がっていた。
温泉の名に娘らしく目を輝かせたロアを援護するかのように、先着順で無料だと蒸し風呂の店主が宣伝した。そう言われれば入らない理由もなく、足早に風呂に向かったロアと、対照的にゆっくりとカミュとイレブンは歩き始める。
「はぁ、迷子!?」
そんな風に入った風呂から出てきたロアが抱えて来たのは青い髪の女の子だった。
面倒事をとカミュはアタマを抱えかけたが、そう言えばイレブンも妹を探す少女に捕まったと言っていた。変なところで似たお人好し姉弟だと、頭を振る。こんな風に時間を食ってる場合じゃないのに。


不安がる女の子に、さっさと片付けたいという一心でカミュはイレブンロアの見つけた二人の少女を引き合わせた。
「誰?この子」
引き合わされた二人の少女のうちベロニカと名乗った勝ち気な少女は、良く話も聞かずばっかじゃないの?と肩をすぼめた。なにおうと言い返したいが、話を聞かなかったことも確か、苦虫を押しつぶしカミュはベロニカの妹(セーニャと言うらしい)が向かったとされる迷宮へと向かうこととなった。
もうどうにでもなれ、とやけっぱちに思ったのはカミュだけが知っている。一方でよろしくなんてニコニコとベロニカに話しかける姉弟は、面倒よりも人助けを優先したらしい。



そうして、三人にベロニカを加えた四人は迷宮を進む。ホムスビ村の西に広がったそれは、村の目と鼻の先にあった。
カミュにとって意外だったのは、守られるばかりと思っていたベロニカが案外戦えるということだ。
「不思議ね、ベロニカちゃん」
こそりと、ロアがカミュたちへ話しかける。
「小さい子のはずなのに、イレブンと同じくらいの子と一緒にいるみたい」
分かってるじゃない。ふふんと胸を張ったベロニカに、これのどこがとカミュは思った。イレブンは否定も肯定もしなかったと思う。

大人と言われ喜ぶ子供は多い。確かに物怖じせず杖を構えて向かっていく姿ばかり勇ましいがカミュにとってはそれだけで、大人の証明にはならない。
「こーみえて、おねーさんなのよ」
子供扱いしないでよね!その言葉が嘘でないと知ったのは、迷宮の奥で妹を見つけたとき。
イレブンやカミュと同じ年頃の少女の下へベロニカは走り出した。倒れたまま動かないセーニャを必死に揺らすベロニカに、カミュも心配そうに、しかし訝しげもしながら覗き込む。やはり、どう見ても彼女が姉だった。
「・・・お、お姉さま!?」
それでも彼女は、ベロニカを姉と呼んだ。
「あのねぇ」
この迷宮に巣くう魔物は人間を捕らえては魔力を吸い出していた。その魔物に捕まってしまったベロニカは魔力と共に年齢も吸われていたと、そういう事らしい。
なんとか逃げ出せはしたが、魔力を取り戻さなければならないのだと続けた。
「だから!私は立派なレディーなわけ!」
漸く理解したカミュへベロニカは指を突き付けた。理解はしたが、納得はしてない。どう見たってガキだろう。そんなことを思いながらカミュは大きくため息をついた。子供な姉に世間なれしてなさそうな妹、こっちの姉妹もなかなかに。



そして、迷宮の奥にいた竜の魔物を倒したが、ベロニカの姿は戻らなかった。
一方で魔力は戻ったようで得意げに炎を出して見せる。妹のセーニャは回復魔法、姉のベロニカは攻撃魔法を得意としているようだった。
「「勇者様」」
ベロニカたちは跪く。
「「私たちは、勇者を守る宿命を負って生まれた聖地ラムダの一族。これからは、命に代えてもあなたをお守りいたします」」
ここで初めてイレブンの目が驚きに開かれた。今まで追われこそすれ、守ろうと言われたのは初めてだった。


イレブン様、あなたは災いを呼ぶ悪魔の子などではありません」

セーニャの言葉を聞いたイレブンはどこか嬉しさを隠しきれずに眼を細めているし、ロアは微笑んでいる。


―――ああ、お前らそっくりだぜ。


こうして、ベロニカとセーニャの姉妹が一行に加わることになったのだ。


(2020/06/12)
(2020/06/15修正)