寄り道と思われた迷宮の探検であったが、仲間ともう一つ収穫があった。
それはここホムスビの里から南西へ向かった先、サマディー王国に大樹の枝があるというものだった。
「「「わー」」」
砂漠オアシスの国サマディーはデルカダール同様、現存する数少ない王国のうちの一つである。
大国であるデルカダール程ではないが、それでもサマディーは広く活気あふれる様相であった。旅慣れたカミュ以外の面々は、上を見上げ口をぽかんと開ける。っとに大丈夫か?ほら、いくぞとカミュがイレブンを小突き、街の最奥にある王宮を指差したその時だった。
「ちょっと別行動しても大丈夫かな?」
突然、ロアがそういった。
「どうしたの?姉さん」
あ。
「分かった、それじゃあ僕たちだけで行ってくるよ
終わったら王宮の前で待ってて?」
ロアがおずおずと出した四角い封筒。イレブンが家で何度も見たそれは、彼女が故郷に送り続けているものだ。村には鳩を飛ばすような所はなかったから、月に何度かくるデルカダールの行商人に頼んだものだ。
そう、宛名は確かソルティコの―――。
えっと、郵便屋さんは・・・。なれない道に、右往左往。フラフラと歩くロアであるが、サーカスがあり観光地としても名高いサマディーでは珍しくはない。
だから、彼が彼女を見つけられたのは偶然だった。
その時サーカスに参加する旅芸人のシルビアは、外の空気を吸うため外に出ていた。活気あふれる素敵な町、この町に行き交う人々を更なる笑顔で彩ることが、彼の命題だった。今日も良い講演ができそうだと笑顔を作って、どんな芸をするかを人々を眺めながら思案する。
そんな中彼女に目がいったのは、遠い昔指切りをした少女と同じ色をしていたから。
いるはずのデルカダールではついぞ見つけることのできなかった少女は、今、目の前の彼女と同じくらいの年齢のはずだった。
見つけた女性は、戸惑うようにふらふらしている。
「大丈夫?」
もっとも、彼女が少女と違う色でもシルビアはそう話しかけただろう。彼は困った人を放っておけないのだから。
振り向いたその顔は、少女の面影を色濃く写していた。
それでも、彼はまさかとは思わなかった。
「すみません、鳩を飛ばせるところを探していて・・・」
「それならこっちよ
案内するわ」
突然話しかけた男に少しも警戒せずに、ふわりと笑って彼女はお礼を言った。その警戒心のなさに思わず、苦笑い。あたしだったから良いものの、とどこか他人事にシルビアは思う。都会は広く煌びやかで、その分危険も多いのだ。
「観光かしら?ここは初めて?」
「観光・・・ここは初めてです
田舎から出て来たので、声をかけていただいて助かりました」
ありがとうございます。と、もうもう一度お礼を言った。
「ここのお住まいなんですか?」
「あたし?
いいえ、しがない旅芸人よん」
ああ、サーカスの。この町の名物であるサーカステントを彼女も知っていたのだろう。少しだけ目を輝かせて、サーカス見たことないんですと続けた。
「公演は今夜よ」
是非見に来てと、ハートを飛ばしながらシルビアは言う。彼女のように目をキラキラさせて楽しそうに自分を見てくれる客が、彼は大好きだった。一番いい笑顔をしてくれる客だから。
「楽しませちゃうわよ~」
魔法でもかけるように、人差し指を彼女の目の前でくるくると回して、薔薇を一つ出して見せる。
彼女ははじめてみたマジックに、目を白黒させて、目一杯の笑顔で受け取った。
ああ、やっぱり来ないかしら。
シルビアにしては珍しく、もう一度この人の笑顔が見たいと思った。
けれど残念ながら郵便屋はもう目の前だ。
(2020/06/15)
それはここホムスビの里から南西へ向かった先、サマディー王国に大樹の枝があるというものだった。
04.大樹の導き①
「「「わー」」」
砂漠オアシスの国サマディーはデルカダール同様、現存する数少ない王国のうちの一つである。
大国であるデルカダール程ではないが、それでもサマディーは広く活気あふれる様相であった。旅慣れたカミュ以外の面々は、上を見上げ口をぽかんと開ける。っとに大丈夫か?ほら、いくぞとカミュがイレブンを小突き、街の最奥にある王宮を指差したその時だった。
「ちょっと別行動しても大丈夫かな?」
突然、ロアがそういった。
「どうしたの?姉さん」
あ。
「分かった、それじゃあ僕たちだけで行ってくるよ
終わったら王宮の前で待ってて?」
ロアがおずおずと出した四角い封筒。イレブンが家で何度も見たそれは、彼女が故郷に送り続けているものだ。村には鳩を飛ばすような所はなかったから、月に何度かくるデルカダールの行商人に頼んだものだ。
そう、宛名は確かソルティコの―――。
えっと、郵便屋さんは・・・。なれない道に、右往左往。フラフラと歩くロアであるが、サーカスがあり観光地としても名高いサマディーでは珍しくはない。
だから、彼が彼女を見つけられたのは偶然だった。
その時サーカスに参加する旅芸人のシルビアは、外の空気を吸うため外に出ていた。活気あふれる素敵な町、この町に行き交う人々を更なる笑顔で彩ることが、彼の命題だった。今日も良い講演ができそうだと笑顔を作って、どんな芸をするかを人々を眺めながら思案する。
そんな中彼女に目がいったのは、遠い昔指切りをした少女と同じ色をしていたから。
いるはずのデルカダールではついぞ見つけることのできなかった少女は、今、目の前の彼女と同じくらいの年齢のはずだった。
見つけた女性は、戸惑うようにふらふらしている。
「大丈夫?」
もっとも、彼女が少女と違う色でもシルビアはそう話しかけただろう。彼は困った人を放っておけないのだから。
振り向いたその顔は、少女の面影を色濃く写していた。
それでも、彼はまさかとは思わなかった。
「すみません、鳩を飛ばせるところを探していて・・・」
「それならこっちよ
案内するわ」
突然話しかけた男に少しも警戒せずに、ふわりと笑って彼女はお礼を言った。その警戒心のなさに思わず、苦笑い。あたしだったから良いものの、とどこか他人事にシルビアは思う。都会は広く煌びやかで、その分危険も多いのだ。
「観光かしら?ここは初めて?」
「観光・・・ここは初めてです
田舎から出て来たので、声をかけていただいて助かりました」
ありがとうございます。と、もうもう一度お礼を言った。
「ここのお住まいなんですか?」
「あたし?
いいえ、しがない旅芸人よん」
ああ、サーカスの。この町の名物であるサーカステントを彼女も知っていたのだろう。少しだけ目を輝かせて、サーカス見たことないんですと続けた。
「公演は今夜よ」
是非見に来てと、ハートを飛ばしながらシルビアは言う。彼女のように目をキラキラさせて楽しそうに自分を見てくれる客が、彼は大好きだった。一番いい笑顔をしてくれる客だから。
「楽しませちゃうわよ~」
魔法でもかけるように、人差し指を彼女の目の前でくるくると回して、薔薇を一つ出して見せる。
彼女ははじめてみたマジックに、目を白黒させて、目一杯の笑顔で受け取った。
ああ、やっぱり来ないかしら。
シルビアにしては珍しく、もう一度この人の笑顔が見たいと思った。
けれど残念ながら郵便屋はもう目の前だ。
(2020/06/15)