「あたしがね、大人になったら結婚しよ
だから、絶対に迎えに来てね」
「絶対に迎えにいく!
僕は、ロアの騎士だから!」
誰も知らない。
約束をしたその時に、彼が抱いていたものがどろりとした、騎士には到底似合わない感情だと。
「本当にありがとうございました」
やっぱり、彼女に来てもらおう。
そうシルビアが思ったのはロアを目的地へ送り届けてからだった。親しい人がいたら呼んではどうだと、サーカス団の団長に貰っていたチケットが楽屋の隅に埋もれてたのを思い出した。
どうせ呼ぶ人もいないし、これも何かの縁よねと、彼女が鳩の手続きをするのを横目にサーカスへ小走りに向かう。間に合えば良し、間に合わなければ縁がなかった。その程度のこと。
道中にはシルビアを見て黄色い声を上げる女性や、ロアと同様に目を煌めかせている青年、シルビアさんと声を張り上げる少年がいて、例えロアが来れなくてもシルビアにとっては彼らの笑顔でも十分なのだ。
「まだ、いるかしら」
時間にしてみれば十分程度、シルビアが戻ってきた時まだロアはそこにいた。
「では、ソルティコ宛て二件確かにお預かりしました」
「よろしくお願いします」
会計はしめて280ゴールド。ここから、ソルティコはそこまで遠くない。
目的をはたし、機嫌良さげに振り返った彼女の顔は、ロアの面影を色濃く残す。
待っていま、どこって言った?
「あら、さっきの」
待たれてるとは思っていない彼女は、シルビアを見つけ驚きに目を見開く。
首をかしげシルビアを見上げると、彼も驚いたように目を丸くしている。
「名前聞いてなかったって思って」
彼がなんとか絞り出した言葉は、まるでナンパするようなセリフだった。
「ああ!」
そう言えばそうですね、恩人の言葉に手を合わせて笑う。
気づいてるのかしら?気づいてないわよね?シルビアが疑ってしまうほど、見知らぬ男の言葉に彼女は訝しむ様子すら見せない。
「私はロアと申します」
軽やかに告げられた名前を、知っていた。
ぶわりと思い出された、白くて暖かい記憶が現実と交差する。約束と、思い描いた未来が今だった。
「えっと・・・シルビア、さんですよね」
固まったままの彼に、ロアが不安げに呼びかける。先ほど受付の方に教えて貰ったんですけど違いますか?そう続けた。
間違ってないけれど、間違っている。彼女はまだ気づいていない。
そんな彼女に、迎えに来たのよと言いたいけれど、これは偶然で。でも、ずっと探していた。
「ええ、合ってるわ
あたしはシルビアって言うの」
そんな混乱を押し殺して笑顔をつくる。
これも何かの縁だからと、チケットを渡しながら聞き出した彼女の予定。ロアはサーカステントの近くの宿に滞在しており、少なくても今日でていくことはないという。
サーカスを楽しみに笑う彼女を見て、どろりとあふれる庇護欲に似たそれは、とてもじゃないけど騎士らしくない執心。
「絶対見に来て、約束よ、ロア」
「はい」
仲間を待たせていると、去ろうとする彼女のその顔に手を添えて。
新しい約束をもう一つ。
(2020/06/16)
だから、絶対に迎えに来てね」
「絶対に迎えにいく!
僕は、ロアの騎士だから!」
誰も知らない。
約束をしたその時に、彼が抱いていたものがどろりとした、騎士には到底似合わない感情だと。
05.大樹の導き②
「本当にありがとうございました」
やっぱり、彼女に来てもらおう。
そうシルビアが思ったのはロアを目的地へ送り届けてからだった。親しい人がいたら呼んではどうだと、サーカス団の団長に貰っていたチケットが楽屋の隅に埋もれてたのを思い出した。
どうせ呼ぶ人もいないし、これも何かの縁よねと、彼女が鳩の手続きをするのを横目にサーカスへ小走りに向かう。間に合えば良し、間に合わなければ縁がなかった。その程度のこと。
道中にはシルビアを見て黄色い声を上げる女性や、ロアと同様に目を煌めかせている青年、シルビアさんと声を張り上げる少年がいて、例えロアが来れなくてもシルビアにとっては彼らの笑顔でも十分なのだ。
「まだ、いるかしら」
時間にしてみれば十分程度、シルビアが戻ってきた時まだロアはそこにいた。
「では、ソルティコ宛て二件確かにお預かりしました」
「よろしくお願いします」
会計はしめて280ゴールド。ここから、ソルティコはそこまで遠くない。
目的をはたし、機嫌良さげに振り返った彼女の顔は、ロアの面影を色濃く残す。
待っていま、どこって言った?
「あら、さっきの」
待たれてるとは思っていない彼女は、シルビアを見つけ驚きに目を見開く。
首をかしげシルビアを見上げると、彼も驚いたように目を丸くしている。
「名前聞いてなかったって思って」
彼がなんとか絞り出した言葉は、まるでナンパするようなセリフだった。
「ああ!」
そう言えばそうですね、恩人の言葉に手を合わせて笑う。
気づいてるのかしら?気づいてないわよね?シルビアが疑ってしまうほど、見知らぬ男の言葉に彼女は訝しむ様子すら見せない。
「私はロアと申します」
軽やかに告げられた名前を、知っていた。
ぶわりと思い出された、白くて暖かい記憶が現実と交差する。約束と、思い描いた未来が今だった。
「えっと・・・シルビア、さんですよね」
固まったままの彼に、ロアが不安げに呼びかける。先ほど受付の方に教えて貰ったんですけど違いますか?そう続けた。
間違ってないけれど、間違っている。彼女はまだ気づいていない。
そんな彼女に、迎えに来たのよと言いたいけれど、これは偶然で。でも、ずっと探していた。
「ええ、合ってるわ
あたしはシルビアって言うの」
そんな混乱を押し殺して笑顔をつくる。
これも何かの縁だからと、チケットを渡しながら聞き出した彼女の予定。ロアはサーカステントの近くの宿に滞在しており、少なくても今日でていくことはないという。
サーカスを楽しみに笑う彼女を見て、どろりとあふれる庇護欲に似たそれは、とてもじゃないけど騎士らしくない執心。
「絶対見に来て、約束よ、ロア」
「はい」
仲間を待たせていると、去ろうとする彼女のその顔に手を添えて。
新しい約束をもう一つ。
(2020/06/16)