鏡ヶ池と呼ばれていた。
国土の大半を砂漠が占めるかの国にとって、水の尊さと言う物は計り知れない。その尊びから大昔には生贄を捧げる祭事があったという。
それ故だろうか、フィガロの南、ひっそりと佇む池には一つの伝説が伝わっていた。
ふと、エドガーがその話を思い出したのは、フィガロの貴重な水源の一つであるこの池を視察に来た折だった。相変わらずどこまでも透き通った水が空を反射し、まるで鏡であった。
池には異常がないようであるし、今年も水に関しては心配せずにすみそうだ。
「綺麗・・・」
その美しい風景に、子どものように表情を輝かせたリタを、微笑ましくみたエドガーはふっと微笑んだ。
池の中でコロコロ笑うリタと目が合って、困ったことだとエドガーは思う。
「リタ」
「なんだ?兄哥」
名前を呼んだ、それだけでぱっと走って側へ来た彼女に視線を移す。
今日もかわいい子分ぶりだが、やっぱり困りものだ。
「この池の伝説を知っているか?」
池からリタを隠す様に立ち、話し始めた。
「伝説?」
「―――ああ、伝説だ」
この池には綺麗なものが大好きな神が宿っていると言う。その神は、美しいものが池に映ると、奪ってしまうのだ。
美しいその風景を神が欲しがったが為に、森であったこの場所は砂漠と化し、この池だけがポツリと残された。
すっと、話し終えたエドガーの顔に影がさした。身長差の分だけ背伸びをしたリタが、砂避けに被ってきたマントでエドガーの精一杯広げていた。
「取られちまったら困る
兄哥は綺麗だから」
おそらくは、水に対する高すぎるまでの信仰と、それに基づく生贄の歴史が築いた眉唾ものの話―――理解しているのに、リタに聞かせたのは。
「リタが取られちまったら困るからな」
衝動のままエドガーはマントごとリタの体を抱きすくめ、こいつは俺だけのものだと、そう神に毒づいた。
(2017/02/21)
閑麗たる王の池
国土の大半を砂漠が占めるかの国にとって、水の尊さと言う物は計り知れない。その尊びから大昔には生贄を捧げる祭事があったという。
それ故だろうか、フィガロの南、ひっそりと佇む池には一つの伝説が伝わっていた。
ふと、エドガーがその話を思い出したのは、フィガロの貴重な水源の一つであるこの池を視察に来た折だった。相変わらずどこまでも透き通った水が空を反射し、まるで鏡であった。
池には異常がないようであるし、今年も水に関しては心配せずにすみそうだ。
「綺麗・・・」
その美しい風景に、子どものように表情を輝かせたリタを、微笑ましくみたエドガーはふっと微笑んだ。
池の中でコロコロ笑うリタと目が合って、困ったことだとエドガーは思う。
「リタ」
「なんだ?兄哥」
名前を呼んだ、それだけでぱっと走って側へ来た彼女に視線を移す。
今日もかわいい子分ぶりだが、やっぱり困りものだ。
「この池の伝説を知っているか?」
池からリタを隠す様に立ち、話し始めた。
「伝説?」
「―――ああ、伝説だ」
この池には綺麗なものが大好きな神が宿っていると言う。その神は、美しいものが池に映ると、奪ってしまうのだ。
美しいその風景を神が欲しがったが為に、森であったこの場所は砂漠と化し、この池だけがポツリと残された。
すっと、話し終えたエドガーの顔に影がさした。身長差の分だけ背伸びをしたリタが、砂避けに被ってきたマントでエドガーの精一杯広げていた。
「取られちまったら困る
兄哥は綺麗だから」
おそらくは、水に対する高すぎるまでの信仰と、それに基づく生贄の歴史が築いた眉唾ものの話―――理解しているのに、リタに聞かせたのは。
「リタが取られちまったら困るからな」
衝動のままエドガーはマントごとリタの体を抱きすくめ、こいつは俺だけのものだと、そう神に毒づいた。
(2017/02/21)