いっそのこと、抱いてしまおうか。
さて、どうするか。
エドガーを悩ませているのは、珍しく女性に関する問題であった。普段より充分すぎる程モテている彼であるが、年齢も30を目前に控え、家臣達が正妻を子供をと急かしてくる。
無論彼も王という立場上それは仕方が無いことで、王の仕事の一つだとも理解している。
故に、うーん、と椅子に腰掛けたまま顎を撫ぜた。
暫くそうしていると、静かな部屋にトントンと控えめなノック音が響いた。入れと言えば、予想したとおりの小さな影が姿を現した。
「失礼します、兄哥?」
もう寝支度も済ませたエドガーを見、なぜ呼ばれたのかとリタは首を傾げた。
そんな彼女に、エドガーは笑うと、手招きする。不思議に思いながらも、抗うことなく歩み寄ってきた彼女を、エドガーはさっと腕の中に収めてしまう。
「兄哥?どうしたんだ?」
「少しばかり考え事があってね」
彼はそう言い、さらにぎゅっと腕に力を込めた。
例え妻を娶っても、リタを手放すつもりは毛頭ない。ただ、結婚した際、子供が出来た際、妻となるその女や周りがリタを排除しようとするのではないか。
特に女は魔物だ、嫉妬に駆られてリタを暗殺だなんて考える奴がいても可笑しくない。
「兄哥」
リタが言った。なんだ、至極優しく問い返せば、エドガーの手に自らの手を添えリタが見上げる。
「俺じゃ、力になれない?」
エドガーの教えた口調で、リタが小首を傾げた。
自身を見上げる目と視線があって、途端、今まで抱いてこなかった感情が鎌首をもたげた。それを、どこか他人事のようにエドガーは感じた。
ふっと短く息を吐いて、彼女の首筋に顔を埋める。彼女も入浴を終えたのだろう、シャボンの匂いが鼻をくすぐった。
「今気づいたんだがね」
「ん、何がです?」
噛み締めるように言われた言葉、首筋にかかる息がくすぐったくて、リタは身をよじった。
そして、逃げられぬようしっかりとリタを抱えたエドガーは、顔をあげてリタの耳元へと唇を寄せる。
「俺がリタを手放すのは無理そうだ」
エドガーの脳裏には、可愛いだとか、美しいだとか、好きだとか、愛してるとか、今迄口説くために使ってきた言葉は何一つ出ては来なかった。代わりにでたのはただの本心。
それを受けたリタは真っ赤な、エドガーの見たことのない顔で俯いた。
「兄哥は、――ずるい」
「ん?」
「だって、そんなこと―――兄哥みたいなや、方、に
言われて嫌な人なんている訳ないじゃないですか
そんなこと、私、―――兄哥の子分では、いられなく「俺だろう?」兄哥!」
いつも通り言葉使いを正したエドガーに、リタは空気読めと言わんばかりに声を上げる。
ぱっと顔を上げたリタの目に飛び込んだのは、ひどく甘く微笑んだエドガーだった。
近づく顔に、思わず目を瞑る。唇が触れたのは左頬。
真っ赤な顔をしたリタが、離れた唇に一瞬寂しそうな表情をした。
「それでも俺は構わないよ?」
「あ、兄哥」
エドガーは抱いたままのリタの体を持ち上げて、そのままベッドへと運んでしまう。
目を白黒させるリタに、ふっと笑いかけ、そのまま彼女の肩をシーツに押し付けた。
「子分でも、そうじゃなくてもリタは、リタだろう?」
(2017/05/18)
王の胸中
さて、どうするか。
エドガーを悩ませているのは、珍しく女性に関する問題であった。普段より充分すぎる程モテている彼であるが、年齢も30を目前に控え、家臣達が正妻を子供をと急かしてくる。
無論彼も王という立場上それは仕方が無いことで、王の仕事の一つだとも理解している。
故に、うーん、と椅子に腰掛けたまま顎を撫ぜた。
暫くそうしていると、静かな部屋にトントンと控えめなノック音が響いた。入れと言えば、予想したとおりの小さな影が姿を現した。
「失礼します、兄哥?」
もう寝支度も済ませたエドガーを見、なぜ呼ばれたのかとリタは首を傾げた。
そんな彼女に、エドガーは笑うと、手招きする。不思議に思いながらも、抗うことなく歩み寄ってきた彼女を、エドガーはさっと腕の中に収めてしまう。
「兄哥?どうしたんだ?」
「少しばかり考え事があってね」
彼はそう言い、さらにぎゅっと腕に力を込めた。
例え妻を娶っても、リタを手放すつもりは毛頭ない。ただ、結婚した際、子供が出来た際、妻となるその女や周りがリタを排除しようとするのではないか。
特に女は魔物だ、嫉妬に駆られてリタを暗殺だなんて考える奴がいても可笑しくない。
「兄哥」
リタが言った。なんだ、至極優しく問い返せば、エドガーの手に自らの手を添えリタが見上げる。
「俺じゃ、力になれない?」
エドガーの教えた口調で、リタが小首を傾げた。
自身を見上げる目と視線があって、途端、今まで抱いてこなかった感情が鎌首をもたげた。それを、どこか他人事のようにエドガーは感じた。
ふっと短く息を吐いて、彼女の首筋に顔を埋める。彼女も入浴を終えたのだろう、シャボンの匂いが鼻をくすぐった。
「今気づいたんだがね」
「ん、何がです?」
噛み締めるように言われた言葉、首筋にかかる息がくすぐったくて、リタは身をよじった。
そして、逃げられぬようしっかりとリタを抱えたエドガーは、顔をあげてリタの耳元へと唇を寄せる。
「俺がリタを手放すのは無理そうだ」
エドガーの脳裏には、可愛いだとか、美しいだとか、好きだとか、愛してるとか、今迄口説くために使ってきた言葉は何一つ出ては来なかった。代わりにでたのはただの本心。
それを受けたリタは真っ赤な、エドガーの見たことのない顔で俯いた。
「兄哥は、――ずるい」
「ん?」
「だって、そんなこと―――兄哥みたいなや、方、に
言われて嫌な人なんている訳ないじゃないですか
そんなこと、私、―――兄哥の子分では、いられなく「俺だろう?」兄哥!」
いつも通り言葉使いを正したエドガーに、リタは空気読めと言わんばかりに声を上げる。
ぱっと顔を上げたリタの目に飛び込んだのは、ひどく甘く微笑んだエドガーだった。
近づく顔に、思わず目を瞑る。唇が触れたのは左頬。
真っ赤な顔をしたリタが、離れた唇に一瞬寂しそうな表情をした。
「それでも俺は構わないよ?」
「あ、兄哥」
エドガーは抱いたままのリタの体を持ち上げて、そのままベッドへと運んでしまう。
目を白黒させるリタに、ふっと笑いかけ、そのまま彼女の肩をシーツに押し付けた。
「子分でも、そうじゃなくてもリタは、リタだろう?」
(2017/05/18)