真似できない音
例えば、この空が一瞬で青に変わった時のように。
世界を変えてくれる何かを探してる。
その何かが何なのか、それは俺には分からない。
ある日俺はある芸術家の真似をした。幻想的な絵だと、天才だと、そう呼ばれた若い男。俺が描いた絵を自分のものと間違えて持って帰った。
また別の日、俺は舞台女優の真似をした。風邪で休んだ彼女の代わりに舞台に上がったが誰も気づかなかった。
そして今、ある料理家の代わりに料理をしている。出来上がった料理は勿論完璧な仕上がりだ。
「・・・」
なぜだろう。
何の文句もない仕上がりなのに、満たされない。
もっと難しい事をものまねするか?
でも何を?
そして、俺は彼女の元へたどり着いた。
彼女は新進気鋭のバイオリニスト。柔らかな音が特徴だ。
とりあえず俺は彼女の真似をしてバイオリンを引いてみる。到底納得のできない出来だった。
そこから俺は弾き続ける。
1週間、1ヶ月・・・。
そして、彼女を見つけて半年。未だに俺は真似出来ない。
バイオリンが弾けないと言う訳ではない、彼女以外のバイオリニストの演奏ならばこの半年で三人分は真似することができた。
「はじめまして」
「はじめまして」
「・・・えっと、」
「・・・えっと、」
だから俺は、彼女をもっと知ってみることにした。
「私はミーシャ=エンリケッヘ」
「私は・・・俺はゴゴ
お前のものまねをしたい」
ああ、そうか困った時にはこんな顔をするのか。
今作った表情は文句なくミーシャのものだ。このまま彼女を知り続ければ、俺はミーシャの音を出せるのだろう。
「ものまね、ですか?」
「ものまね、ですか?」
真似る俺に困惑した表情を浮かべたものの、やがて諦めたのだろうよろしくおねがいしますと項垂れた。
(2016/05/05)