「あたしはボニー=ハンナコッタ
あんたは?」
「クライド」
その時俺の口から飛び出したのは、死んだ男の名前だった。
「ハンナコッタ先生!」
翌日、知らない男の声で目を覚ました。
怪我人がいるんだからもう少し静かに。非難の声に男は一瞬眉根を寄せ、再びきっと女を睨む。
「な?とにかくあたしは無事だったんだし、いいだろ?な?」
「ーーーーーっ!!」
もう言葉にならない。
そんな様子で、彼は目の前の机を叩いた。バンと響く音に、女も引きつった笑顔。
「っあんたいつか死にますよ!」
確かに、俺は死んでしまうつもりだった。
「死ぬきなんて、ないさ」
先程までの煙に巻いたような口調とは違う声色で言った。俺は寝返りを打つように二人の方へ体の向きをかえた。
俺が目線を女へ向けると、彼女は表情を飄々としたものへと変えていた。
「世界が!歴史が!あたしを呼んでいる!!」
ガタンと椅子を倒して立ち上がった女の頭をパン!といい音をさせて男が叩いた。
そして、再び着席させるとぐだぐだと説教を始める。男は女よりも十ほど齢下に見えた。
ひとしきり怒鳴ると、ふぅとため息一つ。
「先生本当に心配なんですって」
「だって、ねぇ?
危険なところにしか遺跡ないんだもん」
「だもんじゃないですよ!いい年こいて!!」
この女。
「せんせっ「あ、目冷めたのか」・・・はい?、あ」
俺に気づいた女が笑った。
男はばつが悪そうに頭をかいた。
こいつはクライドだって、そう女が紹介する。
「また得体の知れない人を拾って・・・」
「クライドは平気だよ」
「先生は前回盗賊を拾ってきた時も同じことを言いました」
どうやらこの女、人を拾うことが趣味らしい。それにしても、前回は盗賊か。とことん見る目がないようだ。
俺など捨ておけばよかったものを。
どこか人事に俺は考える。
「元気そうでよかった
医者がさ、寝てりゃあ、傷も治るってさ」
女は年甲斐もなく破顔させて俺を見る。対照的に俺は眉をひそめた。
この女は最初から俺が起きていることに気づいていたのだと不思議な確信があった。そして、話題をそらすために声を上げたのだ。
なぜ、捨て置いてくれなかった。
「生きてるもんを死なせるのも目覚めが悪いだろ?
こんな時代だからこそ、生きられなかった奴の分もね」
陽の匂いの笑顔を浮かべ、説明する様に女が言った。その手はそっと窓へと伸び、白いカーテンを左右に押し開ける。
途端光が俺の目を刺した。
生きてればさ、と女は言う。
「また、こんな青空を見られるんだよ」
「・・・」
オレにしては珍しく何も考えず、数分ぼんやりと外を眺めた。
十数年ぶり覆面を通さずに眺めた世界は、あまりに眩く鮮やかでそうする以外の方法が俺には見つからなかったのだ。
「ボニー」
酔狂で面妖な女の名を呼んだ。
「なんだ?クライド」
シャドウは死んだと俺は思った。
(2016/06/05)
あんたは?」
「クライド」
その時俺の口から飛び出したのは、死んだ男の名前だった。
黄泉、帰りし男
「ハンナコッタ先生!」
翌日、知らない男の声で目を覚ました。
怪我人がいるんだからもう少し静かに。非難の声に男は一瞬眉根を寄せ、再びきっと女を睨む。
「な?とにかくあたしは無事だったんだし、いいだろ?な?」
「ーーーーーっ!!」
もう言葉にならない。
そんな様子で、彼は目の前の机を叩いた。バンと響く音に、女も引きつった笑顔。
「っあんたいつか死にますよ!」
確かに、俺は死んでしまうつもりだった。
「死ぬきなんて、ないさ」
先程までの煙に巻いたような口調とは違う声色で言った。俺は寝返りを打つように二人の方へ体の向きをかえた。
俺が目線を女へ向けると、彼女は表情を飄々としたものへと変えていた。
「世界が!歴史が!あたしを呼んでいる!!」
ガタンと椅子を倒して立ち上がった女の頭をパン!といい音をさせて男が叩いた。
そして、再び着席させるとぐだぐだと説教を始める。男は女よりも十ほど齢下に見えた。
ひとしきり怒鳴ると、ふぅとため息一つ。
「先生本当に心配なんですって」
「だって、ねぇ?
危険なところにしか遺跡ないんだもん」
「だもんじゃないですよ!いい年こいて!!」
この女。
「せんせっ「あ、目冷めたのか」・・・はい?、あ」
俺に気づいた女が笑った。
男はばつが悪そうに頭をかいた。
こいつはクライドだって、そう女が紹介する。
「また得体の知れない人を拾って・・・」
「クライドは平気だよ」
「先生は前回盗賊を拾ってきた時も同じことを言いました」
どうやらこの女、人を拾うことが趣味らしい。それにしても、前回は盗賊か。とことん見る目がないようだ。
俺など捨ておけばよかったものを。
どこか人事に俺は考える。
「元気そうでよかった
医者がさ、寝てりゃあ、傷も治るってさ」
女は年甲斐もなく破顔させて俺を見る。対照的に俺は眉をひそめた。
この女は最初から俺が起きていることに気づいていたのだと不思議な確信があった。そして、話題をそらすために声を上げたのだ。
なぜ、捨て置いてくれなかった。
「生きてるもんを死なせるのも目覚めが悪いだろ?
こんな時代だからこそ、生きられなかった奴の分もね」
陽の匂いの笑顔を浮かべ、説明する様に女が言った。その手はそっと窓へと伸び、白いカーテンを左右に押し開ける。
途端光が俺の目を刺した。
生きてればさ、と女は言う。
「また、こんな青空を見られるんだよ」
「・・・」
オレにしては珍しく何も考えず、数分ぼんやりと外を眺めた。
十数年ぶり覆面を通さずに眺めた世界は、あまりに眩く鮮やかでそうする以外の方法が俺には見つからなかったのだ。
「ボニー」
酔狂で面妖な女の名を呼んだ。
「なんだ?クライド」
シャドウは死んだと俺は思った。
(2016/06/05)