それは指切りで始まった恋だった。
チェスが出現する前のレスターヴァ。ここにはたくさんの使用人とその家族が住んでいた。
リズもその一人で、父親は城のコックをしている。
「アラン君!アラン君!」
「走ってると転ぶぞ」
「大丈夫だもん!」
最近の彼女のお気に入りは、この兵士になったばかりの男。ぱたぱたとアランに駆け寄るとリズはその足に抱きついた。
「ね、アラン君
私かわいい?」
「あーかわいいかわいい。だから離れろ
抱きつくなっていつも言ってんだろうが」
投げやりな言葉にもめげず、彼女はにこぉっと笑みを浮かべた。
子供が苦手なアランにとってリズは面倒以外の何者でもない。しかし、たいそう懐いている彼女は“アラン君”“アラン君”といつもアランに付いて回った。
「じゃあね、もしリズが大人になってもアラン君のこと好きだったら、けっこんしてくれる?」
それはきっと綿飴のように甘く脆い恋心。
「おー、大人になっても好きだったらな」
きっとすぐに、しゅわしゅわと音を立てて溶けていく。
「じゃあゆびきり!」
「へいへい」
「ゆーびきりげんまん嘘ついたら針千本のーます!ゆびきった!」
こんな暖かい光景も今では昔だとアランは思う。チェスの登場が全てを壊してしまったから。
アランがクロスガードになってからはウォーゲームに町の防衛にと忙しくなり、本当にリズには構えなくなってしまった。それを心残りに思う程度にはリズが可愛くて仕方がなかったのだと今更ながらに感じる。
「アランさんには婚約者がいるから」
「「なにー!!?」」
「ばっ、」
時は流れ、再びウォーゲームに参加しているアランの元に当然ながらリズはいない。
「ダンナさんが言ってましたよ
アランには可愛い可愛い婚約者がいるって」
婚約者なんてものじゃないのは、ダンナも当然知っている。笑いを押し殺したダンナとその言葉をキラキラした目で聞くアルヴィスが容易に想像できた。
「ダンナのやろう・・・
婚約なんかじゃねえよ、大人になったら結婚しようって良くある餓鬼の戯言だ
レスターヴァに居た餓鬼が俺になついてたんだよ!」
「なーんだ」
あいつは生きてるのだろか。そう言えばウォーゲームの最中もリズはアランにまとわりついていた。
すぐになくすと思ってたアランへの興味は、六年前のあの日まで確かにあったものだ。
犬と合体さえしなければもしかして。
* * *
「すみません
ここにクロスガードのアランって人が居ると思うんだけど、知ってる?」
その翌日だ。彼を見知らぬ女が訪ねてきたのは。
「おっさん?
姉ちゃんおっさんの知り合いなのか?」
「うん。呼んできてもらえるかな?」
呼ぶも何もアランは彼女に気づいていた。
「・・・アラン君?」
その呼び方にリズの思いでが蘇る。それを踏みにじられた気がして、彼は苛立ち眉間にシワを寄せた。
人相がいいとはいえない大柄な男の睨みはとても迫力あるものだが、女はにこぉっと笑顔を浮かべた。
「―!」
それはいつもアランの隣で浮かべてた、とても幼い笑顔。
「リズ・・・?」
「うん!」
気づいてくれたことが嬉しくて、リズはアランの腰へと抱きついた。
今日日の旅がどれほど危険かはアランは分かっていた。それでもウォーゲムにアランの姿をみつけここまで来たのだろう。
ああ、もうアランの負けだ。
「ね、アラン君
大人になったから結婚してくれる?」
「しょうがねえ
針千本はいやだからな」
下ろされたままのアランの右手。その小指をそっとリズの指が包んだ。
(2016/06/05)
綿菓子の恋心
チェスが出現する前のレスターヴァ。ここにはたくさんの使用人とその家族が住んでいた。
リズもその一人で、父親は城のコックをしている。
「アラン君!アラン君!」
「走ってると転ぶぞ」
「大丈夫だもん!」
最近の彼女のお気に入りは、この兵士になったばかりの男。ぱたぱたとアランに駆け寄るとリズはその足に抱きついた。
「ね、アラン君
私かわいい?」
「あーかわいいかわいい。だから離れろ
抱きつくなっていつも言ってんだろうが」
投げやりな言葉にもめげず、彼女はにこぉっと笑みを浮かべた。
子供が苦手なアランにとってリズは面倒以外の何者でもない。しかし、たいそう懐いている彼女は“アラン君”“アラン君”といつもアランに付いて回った。
「じゃあね、もしリズが大人になってもアラン君のこと好きだったら、けっこんしてくれる?」
それはきっと綿飴のように甘く脆い恋心。
「おー、大人になっても好きだったらな」
きっとすぐに、しゅわしゅわと音を立てて溶けていく。
「じゃあゆびきり!」
「へいへい」
「ゆーびきりげんまん嘘ついたら針千本のーます!ゆびきった!」
こんな暖かい光景も今では昔だとアランは思う。チェスの登場が全てを壊してしまったから。
アランがクロスガードになってからはウォーゲームに町の防衛にと忙しくなり、本当にリズには構えなくなってしまった。それを心残りに思う程度にはリズが可愛くて仕方がなかったのだと今更ながらに感じる。
「アランさんには婚約者がいるから」
「「なにー!!?」」
「ばっ、」
時は流れ、再びウォーゲームに参加しているアランの元に当然ながらリズはいない。
「ダンナさんが言ってましたよ
アランには可愛い可愛い婚約者がいるって」
婚約者なんてものじゃないのは、ダンナも当然知っている。笑いを押し殺したダンナとその言葉をキラキラした目で聞くアルヴィスが容易に想像できた。
「ダンナのやろう・・・
婚約なんかじゃねえよ、大人になったら結婚しようって良くある餓鬼の戯言だ
レスターヴァに居た餓鬼が俺になついてたんだよ!」
「なーんだ」
あいつは生きてるのだろか。そう言えばウォーゲームの最中もリズはアランにまとわりついていた。
すぐになくすと思ってたアランへの興味は、六年前のあの日まで確かにあったものだ。
犬と合体さえしなければもしかして。
* * *
「すみません
ここにクロスガードのアランって人が居ると思うんだけど、知ってる?」
その翌日だ。彼を見知らぬ女が訪ねてきたのは。
「おっさん?
姉ちゃんおっさんの知り合いなのか?」
「うん。呼んできてもらえるかな?」
呼ぶも何もアランは彼女に気づいていた。
「・・・アラン君?」
その呼び方にリズの思いでが蘇る。それを踏みにじられた気がして、彼は苛立ち眉間にシワを寄せた。
人相がいいとはいえない大柄な男の睨みはとても迫力あるものだが、女はにこぉっと笑顔を浮かべた。
「―!」
それはいつもアランの隣で浮かべてた、とても幼い笑顔。
「リズ・・・?」
「うん!」
気づいてくれたことが嬉しくて、リズはアランの腰へと抱きついた。
今日日の旅がどれほど危険かはアランは分かっていた。それでもウォーゲムにアランの姿をみつけここまで来たのだろう。
ああ、もうアランの負けだ。
「ね、アラン君
大人になったから結婚してくれる?」
「しょうがねえ
針千本はいやだからな」
下ろされたままのアランの右手。その小指をそっとリズの指が包んだ。
(2016/06/05)