Eternal Oath

「人間のお客さんなんて何年振りだろうねぇ」

その家には二人住んでいた。一人は中年の女性。もう一人はその息子のジャックと言う少年だった。

「でもいいんですか?
本当にここまでして下さって」

怪しげなリィオにも臆することは無くジャックの母親は朗らかに笑った。それをまぶし気にリィオは眺め、野菜をかじる。
暖かい味がした。

03.農夫と魔法使い


―――アォォォオオン

「狼・・?」
「っ!!!?」



ダッと。それまでギンタと雑談をしていたジャックが駆け出し、ドアを確認する。その手には一枚、獣の手形の押された紙が握られていた。
どう見ても知的生物の仕業であった。
人狼の類かとリィオは盗み見る。


「それは?」
「予告状っす・・・”ルーガルーブラザーズ”人狼の盗賊っす」

ジャック曰く、その人狼は二人組で畑を荒しに来るらしい。人狼にとって、父親が不在であるこの家は格好の餌場であった。
そんなジャックの言葉を聞き、野菜を食べ満足していたバッボが神妙な面持ちで口を開いた。


「随分となめられておるのだな!
その間自らの誇りを胸に戦ったのかな?ジャックと―――
何をするのじゃリィオ!」
「勇気と蛮勇は似て異なるものだよ、バッボ」
「ばん・・・?」

手の甲でリィオが軽くバッボを叩いた。フードの所為でリィオの表情は垣間見る事は出来ない。
バッボを叩いた手と逆の手が、フードの下のブレードを触る。


「仕方ないし、それでいいんだよ
相手は凶暴な狼」
「そういう事だ

ジャック!狼は明日来るんだな?」
「あ、あぁ
そうっす」


その言葉に頷くと、リィオは話題を打ちとめる。そして、ジャックとギンタに寝るとだけ声をかけ部屋へと戻った。



***



翌日の夜、ジャックの足音でリィオは眼を覚ました。隣のギンタも同じであるが、寝たふりを決め込んでいたようなので彼は放って、に家の外へと出た。

リィオの後からギンタも出てくるが、気付かれたくない様なので気付かないふりをする。


「さて・・・」


リィオの視線の先、ジャックがルーガルーへクワをむける。それを冷静に見て、ジャックには難しい相手だがギンタにとっては敵ではないだろうと目算する。ギンタの気配が屋根の上で揺れた。いつ飛び出すべきか、決めかねているのだろう。

礼のつもりだったが、自分が出る幕はなさそうだと、そう思った。


「!?」


ルーガルーなんかよりはるかに強い気配が一つ。


「(ギンタでも無理だ)」


畑には、人狼の他に一人の男。ローブのようなものを着たその男は、ジャックをちらりと流し見るだけで手を出す様子はない。どうやらルーガルーの方に用があるようだ。

それでもいつ動くか分らない男に、リィオは腰のブレードを抜く。



―――結局その夜、男は戦いに参加することは無かった。


***


翌朝。ルーガルーを倒したジャック達。どこか誇らしそうな二人に、ジャックの母親は

―――パァン!

強烈なビンタを喰らわせた。当然の反応だろうとどこか他人事のようにリィオはそれを眺める。
母親ならば子供が傷つくことを良しとはしないのだろう。
遠く何かをおもいだしそうで、思い出せなかった。


(2016/05/05)