Eternal Oath

「さて、行こうか」

ナナシのディメンションARMで訪れた田舎町―ヴェストリ―。リィオ・ギンタ・ドロシー・ナナシの四人はチェスの駒が潜んでいるという洞窟へと足を踏み入れた。

途中二手に分かれ、リィオはギンタと二人で洞窟の奥へと足を進める。

12.魔法使いの敗北


「誰だ!」「そこに誰かおるな!」


感じた人の気配にリィオとバッボがほぼ同時に声を上げる。
出てきた人物はきれいな顔をした優男だった。姿を見、バッボとギンタは警戒を解くがリィオはフードの下で難しい顔をする。

(こいつは嘘をついている)

とても深い警戒は、傭兵として人の裏をたくさん見てきたリィオだからこそ抱いたものだ。何が怪しいわけでもない。しかし、リィオのカンが警鐘を鳴らしていた。
猜疑心を抱いたままのリィオは口数も少なく、ギンタとトムが談笑する声だけが洞窟に響く。やがて、洞窟が開け小さな入り江と大きな船にたどり着いた。どうやら、ここがこの洞窟の終着点のようだ。


「下がってろトム」


入り江についた途端感じた魔力はチェスの駒のもので。


「ギンタ、自分も戦おうか?」
「いや、リィオはトムを守っててくれ」

「分かった」


雇い主からも許可を得てリィオはトムと共に岩陰へと隠れた。

ギンタが戦いを始めた一瞬のトムの視線が気持ち悪いソレへと変わる。

「お前、チェスだな?」
「え?そんなこと「―――だまれ」」

それでも寒い芝居を続けるトムの首元にARMを向ける。向けられた切っ先を見て、トムはにやりと笑った。
どうして分かったのなんて言う彼にもう優男の雰囲気はない。


「そうだね、殺してしまってもいいんだけれど」
「その―――」


その状況で何を。
そう言おうとしたリィオの口が不自然に固まった。ダークネスARMだと気づいた頃には遅く、何もできないのは自分のほうになっていた。


「ギンタが知るにはまだ早いからね」


そのままそっとリィオの前へと進み出ると、リィオのフードを取り去る。


「・・・ふぅん」


その目をのぞき込み、リィオの唇に指を滑らせる。ぞわぞわと不快感が背筋を駆け回るが、指一本どころか眉すらも動くことはない。
くすりと音を立てて笑うと、一瞬だけトムは魔力を放った。

「ダークネスARM―イマジナリーフレンド―
これはこのARMが壊れるか僕が解除するまで君の行動を制限する

発動条件はこのARMの効果を話して相手に聞かせること
そして、僕が君に課すのは”僕の正体をばらさないこと”」

トムが話終わると同時に、拘束が解除された。あまりにもあっさりと解除されたので、拍子抜けをする。
しかし、しっかりとARMの効果は続いているらしくトムに武器を振り上げることはできなかった。フードを元に戻すと、仕方なしにリィオはトムから距離をとった。


「今は、殺さないよ」

笑って言うトムの言葉を信じることは到底できなかった。

遠くで戦うギンタがいなければリィオは間違いなく殺されていただろう。リィオは何もすることができなかったのだから。


(2016/05/05)