「わー」
薄暗い雰囲気の漂う闇市で場にそぐわない声を上げる人物がいた。深くかぶったフードから表情を臨むことはできないがその雰囲気から笑顔であろうことだけは分かった。
メルの一員であり、正体不明の人物でもあるリィオ。元レギンレイヴの兵士であり前ウォーゲームの英雄であるアラン。一つも二つも後ろ暗いことを抱えた闇市の客たちは遠巻きに二人を見守った。触らぬ神にたたりなしである。
はしゃぐリィオを尻目にアランはたばこを銜えなおす。
めんどくさい。非常に。
せっかくの休日はゆっくり眠ろうと思っていたのに。
「お前なんできたんだ?」
ガイラが見張っとけってうるさいんだよ。
聞いてきたくせにふぅんと軽く相槌を打って、リィオは目の前のARMをつまみ上げる。さすがルべリアも絡んでいる闇市なだけあり、表の市場ではめったに出ないレアARMばかりが並んでいる。もっとも値段も表のそれとは比べものにならないが。
リィオがつまみ上げたネックレスは、貴族の使う豪奢な馬車が二台は買える値段が記されていた。肩越しにそれを見たアランは眉を顰めた。
「悪かねぇけど、さすがに買うのに勇気がいる値段だな」
術者の魔力に応じ身体の硬質化とダークネスARMの防御を行うARMだった。
勇気をだせば買えるのかよ、この金持ちめ。さらりとはかれたセリフにそう毒づいた。
それはおいておいてもアランが悪くないと言うくらいなのだからいいARMなのだろう。リィオは手持ちとARMの値段とを考えて顎に手を当てた。
「まさか買うのか」
「・・・・・・・・・そうだな」
何度かうんうんと頷き、買うことにしたのだろう手元のカバンを開いた。
金目の物との交換でもいいか、なんてめったにされない交渉に店主は見てから決めると返す。リィオはカバンの中から革の袋を取り出すと店主の掌に載せた。じゃりと音を立てたその中には色とりどりの宝石がぎっしりと入っていた。
どうだ。しばらく見とれていた店主はリィオに声をかけられるとはじかれたように頷いた。
「金持ちだな・・・」
ここまでわずか数分のできごとだ。
「馬鹿を言え
これが殆ど全財産だよ」
買ったばかりのARMを首に通す。敵からすればおそろしいなとアランは思う。このフードの下に何が隠されてるかなんて誰も知らないのだ。
満足したのだろうリィオは闇市を後にしようと足を進めた。
「なんだもういいのか」
「ああ目当てのものは買ったからな」
長引くとばかり考えていた買い物はあっさりと終わりを告げた。あんなにはしゃいでいたのに、このひとつばかりでいいのかとアランは問う。
いいと、リィオは答えた。元々これが目当てだったとも。
「またダークネスARMにかかる訳にはいかないしな」
フードの下でネックレスを鳴らしながらリィオが笑う。
おかしな話だが、昨日の件を受け、ある種リィオをきちんと見るようになった。すると驚くほどにリィオは分かりやすい人物だ。
自身を疑っていると告げた人物に背を向けて、リィオはどんどん先へと進む。
「案外俺たちも毒されちまってんのかもなぁ」
”戦争”ってやつに。
果たしてチェスがいない状況で、ガイラや自分がこんなにリィオを疑ったのか疑問に思った。
「アラン!どうしたんだ?」
先を歩くリィオが振り返った。短い返事をしてアランも続く。
(2016/05/05)
薄暗い雰囲気の漂う闇市で場にそぐわない声を上げる人物がいた。深くかぶったフードから表情を臨むことはできないがその雰囲気から笑顔であろうことだけは分かった。
20.はしゃぐ魔法使い
メルの一員であり、正体不明の人物でもあるリィオ。元レギンレイヴの兵士であり前ウォーゲームの英雄であるアラン。一つも二つも後ろ暗いことを抱えた闇市の客たちは遠巻きに二人を見守った。触らぬ神にたたりなしである。
はしゃぐリィオを尻目にアランはたばこを銜えなおす。
めんどくさい。非常に。
せっかくの休日はゆっくり眠ろうと思っていたのに。
「お前なんできたんだ?」
ガイラが見張っとけってうるさいんだよ。
聞いてきたくせにふぅんと軽く相槌を打って、リィオは目の前のARMをつまみ上げる。さすがルべリアも絡んでいる闇市なだけあり、表の市場ではめったに出ないレアARMばかりが並んでいる。もっとも値段も表のそれとは比べものにならないが。
リィオがつまみ上げたネックレスは、貴族の使う豪奢な馬車が二台は買える値段が記されていた。肩越しにそれを見たアランは眉を顰めた。
「悪かねぇけど、さすがに買うのに勇気がいる値段だな」
術者の魔力に応じ身体の硬質化とダークネスARMの防御を行うARMだった。
勇気をだせば買えるのかよ、この金持ちめ。さらりとはかれたセリフにそう毒づいた。
それはおいておいてもアランが悪くないと言うくらいなのだからいいARMなのだろう。リィオは手持ちとARMの値段とを考えて顎に手を当てた。
「まさか買うのか」
「・・・・・・・・・そうだな」
何度かうんうんと頷き、買うことにしたのだろう手元のカバンを開いた。
金目の物との交換でもいいか、なんてめったにされない交渉に店主は見てから決めると返す。リィオはカバンの中から革の袋を取り出すと店主の掌に載せた。じゃりと音を立てたその中には色とりどりの宝石がぎっしりと入っていた。
どうだ。しばらく見とれていた店主はリィオに声をかけられるとはじかれたように頷いた。
「金持ちだな・・・」
ここまでわずか数分のできごとだ。
「馬鹿を言え
これが殆ど全財産だよ」
買ったばかりのARMを首に通す。敵からすればおそろしいなとアランは思う。このフードの下に何が隠されてるかなんて誰も知らないのだ。
満足したのだろうリィオは闇市を後にしようと足を進めた。
「なんだもういいのか」
「ああ目当てのものは買ったからな」
長引くとばかり考えていた買い物はあっさりと終わりを告げた。あんなにはしゃいでいたのに、このひとつばかりでいいのかとアランは問う。
いいと、リィオは答えた。元々これが目当てだったとも。
「またダークネスARMにかかる訳にはいかないしな」
フードの下でネックレスを鳴らしながらリィオが笑う。
おかしな話だが、昨日の件を受け、ある種リィオをきちんと見るようになった。すると驚くほどにリィオは分かりやすい人物だ。
自身を疑っていると告げた人物に背を向けて、リィオはどんどん先へと進む。
「案外俺たちも毒されちまってんのかもなぁ」
”戦争”ってやつに。
果たしてチェスがいない状況で、ガイラや自分がこんなにリィオを疑ったのか疑問に思った。
「アラン!どうしたんだ?」
先を歩くリィオが振り返った。短い返事をしてアランも続く。
(2016/05/05)