一通りリィオの話が終わり、最初に口を開いたのはアルヴィスだった。
「すまなかったギンタ」
ギンタに深々と頭を下げる。
メルを守りたいという気持ちに偽りも何もなかった。ただ、一つ失念していた異世界の住人にも家族が、大切な人がいるということを。リィオを悲しいと言ったギンタには彼を待つ人がいる。
異世界の住人はメルヘヴンの救世主であっても道具ではない。意志も人生もあるのだと。彼の帰りを待つ人にとって自分はチェスよりも悪人だ。
「リィオも、俺が巻き込んだようなものだ」
「自分は別に」
ギンタだって気にしてないだろ?
おう!と元気な返事。おそらく彼は本気で気にしていないのだろう。
その度量の広さには時々リィオも驚嘆する。
間違いに気づいたのならそれでいい。そう考えるリィオの度量もなかなかだと言うことに本人は気づいていない。
そして、次に動いたのはナナシ。リィオの手を取ろうとして避けられて、ずっこけたポーズのまま顔を上げる。リィオと話す時としては、珍しいキリリとした表情。
「理想像や・・・
リィオ、ゲームが終わったら自分と一緒に盗賊「嫌だ」」
なおも手をつかもうとするナナシの手を叩く。
「じゃあ、自分と付きおうてくれ!・・・「切り落とすぞ」」
ちゃきとなった金属音は、リィオが剣に手をかけた音だ。
お前みたいな輩が鬱陶しいからフードしてたんだよと、世の中の女性を敵に回しそうな捨て台詞を吐き、ナナシに背を向けた。
泣くナナシの背にジャックの掌が落とされた。
そして向かうは大人の二人、ガイラとアランの元だった。若い連中とは違いやんややんや言わない分、落ち着いて酒が飲めるとリィオは踏んだ。
ガイラとアランは、リィオの姿に露骨に戸惑う。特にガイラは驚きも一入だ。
その強さから男だと思っていた。
何も知らないのも、潜入のため知らないふりをしているのだと思った。
リィオは、敵だと思い込んでいた。
しかし蓋を開けてみれば彼女はただの異世界の住人だった。しかも、ギンタと同じくメルヘヴンのために命を懸けてくれている。
疑った自分が恥ずかしいやら申し訳ないやらで、ガイラは言葉に詰まったのだ。
そんなガイラを訝し気に見ながらリィオは食べ物を物色する。相変わらずよく飲む彼女は、本日三杯目の酒を飲み干した。
「あんまりさ、気にすんな
慣れてる」
リィオがガイラを流し見た。
てかさ、どう考えても怪しいだろうよ。自分がお前らでも疑うよ。
慣れてるからな、とリィオは言う。
「・・・なぜ、お前は」
きっと疑われることも、軽視されることも、敵意を抱かれることでさえ彼女にとっては普通のことなのだろう。落とすように微笑む彼女は、ガイラから見ても美しい見目をしている。彼女ならなにも戦闘に身をさつさずともいくらでも仕事があるだろうに。
「さっき話したろ?自分を拾ってくれたおっちゃんが傭兵だったんだよ
自分はさ、おっちゃんになりたかったんだよ」
よくやったと、剣を振る自分を撫ぜてくれた手は暖かかった。自分を守ってくれた、その背が大きくたくましかった。
戯れに見せた剣技は達人のそれで、純粋にあこがれた。
「まあ、もっとも真似したところで自分には才能がなかったからな
剣だけはどうしようもなかった」
皮肉なことにリィオが天から授かっていたのは魔法の才能だった。
どんなに剣を振るっても、自分を拾ってくれたあの人の足元にも及ばない。
「どんな、御仁だったのだ?」
リィオはゆっくりと瞬きをした。
「アランに、よく似た人だったよ」
(2016/06/08)
25.彼らと魔法使い
「すまなかったギンタ」
ギンタに深々と頭を下げる。
メルを守りたいという気持ちに偽りも何もなかった。ただ、一つ失念していた異世界の住人にも家族が、大切な人がいるということを。リィオを悲しいと言ったギンタには彼を待つ人がいる。
異世界の住人はメルヘヴンの救世主であっても道具ではない。意志も人生もあるのだと。彼の帰りを待つ人にとって自分はチェスよりも悪人だ。
「リィオも、俺が巻き込んだようなものだ」
「自分は別に」
ギンタだって気にしてないだろ?
おう!と元気な返事。おそらく彼は本気で気にしていないのだろう。
その度量の広さには時々リィオも驚嘆する。
間違いに気づいたのならそれでいい。そう考えるリィオの度量もなかなかだと言うことに本人は気づいていない。
そして、次に動いたのはナナシ。リィオの手を取ろうとして避けられて、ずっこけたポーズのまま顔を上げる。リィオと話す時としては、珍しいキリリとした表情。
「理想像や・・・
リィオ、ゲームが終わったら自分と一緒に盗賊「嫌だ」」
なおも手をつかもうとするナナシの手を叩く。
「じゃあ、自分と付きおうてくれ!・・・「切り落とすぞ」」
ちゃきとなった金属音は、リィオが剣に手をかけた音だ。
お前みたいな輩が鬱陶しいからフードしてたんだよと、世の中の女性を敵に回しそうな捨て台詞を吐き、ナナシに背を向けた。
泣くナナシの背にジャックの掌が落とされた。
そして向かうは大人の二人、ガイラとアランの元だった。若い連中とは違いやんややんや言わない分、落ち着いて酒が飲めるとリィオは踏んだ。
ガイラとアランは、リィオの姿に露骨に戸惑う。特にガイラは驚きも一入だ。
その強さから男だと思っていた。
何も知らないのも、潜入のため知らないふりをしているのだと思った。
リィオは、敵だと思い込んでいた。
しかし蓋を開けてみれば彼女はただの異世界の住人だった。しかも、ギンタと同じくメルヘヴンのために命を懸けてくれている。
疑った自分が恥ずかしいやら申し訳ないやらで、ガイラは言葉に詰まったのだ。
そんなガイラを訝し気に見ながらリィオは食べ物を物色する。相変わらずよく飲む彼女は、本日三杯目の酒を飲み干した。
「あんまりさ、気にすんな
慣れてる」
リィオがガイラを流し見た。
てかさ、どう考えても怪しいだろうよ。自分がお前らでも疑うよ。
慣れてるからな、とリィオは言う。
「・・・なぜ、お前は」
きっと疑われることも、軽視されることも、敵意を抱かれることでさえ彼女にとっては普通のことなのだろう。落とすように微笑む彼女は、ガイラから見ても美しい見目をしている。彼女ならなにも戦闘に身をさつさずともいくらでも仕事があるだろうに。
「さっき話したろ?自分を拾ってくれたおっちゃんが傭兵だったんだよ
自分はさ、おっちゃんになりたかったんだよ」
よくやったと、剣を振る自分を撫ぜてくれた手は暖かかった。自分を守ってくれた、その背が大きくたくましかった。
戯れに見せた剣技は達人のそれで、純粋にあこがれた。
「まあ、もっとも真似したところで自分には才能がなかったからな
剣だけはどうしようもなかった」
皮肉なことにリィオが天から授かっていたのは魔法の才能だった。
どんなに剣を振るっても、自分を拾ってくれたあの人の足元にも及ばない。
「どんな、御仁だったのだ?」
リィオはゆっくりと瞬きをした。
「アランに、よく似た人だったよ」
(2016/06/08)