「アランに、よく似た人だったよ」
―――忘れてた。
アランはベッドの上で固まったように、否固まっていた。普段だったら宴会から持ち帰ってきた酒でもう一杯リィオと盃を交わすのだが、今日ばかりは杯を持つ手が止まっていた。
リィオが女だからといって騒ぐ程彼は子供ではないが、子供ではないから彼女と平然と同室で休むことは出来ない。
「(始めは―――)」
彼女自身が語ったように怪しいやつだと思った。チェスでなくてもならず者や盗賊の類かもしれないと、フードの顔を睨めつけた。
それが変わったのは何時だったかもうアランには思い出せない。
リィオが手酌で酒をつぐ姿を見ながら、アランは酒を口に運んだ。いつも言葉数は少ないが、今日は尚更だと窓から覗く満月を見上げる。
特別明るい月明かりがリィオの姿を照らし、まるで絵画か何かのように浮かび上がった。一拍おくと、二人はそろってまぶし気に目をひそめた。
「なんだか今日変だな」
リィオが薄く笑う。
その声色は何度も聞いたもので、きっといつもフードの下でこんな表情をしていたのだろう。
逡巡し、アランも薄く笑って答えた。
「そりゃ、いつもと同じって訳にはいかねぇだろ」
「そうか?・・・・そうか」
カランとリィオの手の中グラスが音を立てて、ゆっくりと机の上に置かれた。笑みを深くしアランを見上げるがアランはその真意を測りかね酒を煽る。
酔ってるのかとも思ったが、リィオのそんな姿は見たことがなかった。
「こんな風に誰かと長くいるのも、自分のことを話すのも・・・おっちゃん以来だ」
アランはその言葉に合点した。そう言えば育ての親に似ていると言っていたと思い出す。
「俺は代わりか」
思わず、そう言った感じでアランがこぼした。
「おっちゃんとアランは違う
アランは、アランだろう」
またリィオが薄く笑った。
アランがぎこちなくグラスを机に置き、それを見たリィオが首をかしげる。何時もだったらアランはリィオと同じくらい酒を飲み、話の途中でグラスを置いたりはしない。
アランは腕を組み目を閉じ大きく息を吐く。ぎぃと小さく床が軋む、リィオの気配が確かに揺れた。
「アラン?」
ひどく無防備に彼女がアランをのぞき込む。
開いたアランの目に飛び込んだのは自身を見上げるリィオの顔だった。無意識に伸ばした右手が絹糸の黒髪を梳き、さらさらとした感覚にアランは目を細める。
なぜ、抵抗しない?ナナシに対しては手を握られる事ですら避けていたのに。
「お前になら構わないと思った」
簡潔でストレートなリィオの言葉にアランはそのままリィオの頭を自分へと引き寄せた。
「いいのか?」
「してから、聞くのか」
問いかけにリィオが答える。ひどく穏やかに笑っていた。
彼女はアランの隣に腰掛けると乱れた髪をかきあげた。
「アランになら構わない」
引き寄せた体躯は鍛えてあるものの細く、リィオが女性なのだと思わせるのに十分なものだった。
「とりあえずよぅ」
「なんだ?」
「付き合うか」
アランの背に、手が添えられた。
「ああ」
(2016/06/08)
26.月明かりの魔法使い
―――忘れてた。
アランはベッドの上で固まったように、否固まっていた。普段だったら宴会から持ち帰ってきた酒でもう一杯リィオと盃を交わすのだが、今日ばかりは杯を持つ手が止まっていた。
リィオが女だからといって騒ぐ程彼は子供ではないが、子供ではないから彼女と平然と同室で休むことは出来ない。
「(始めは―――)」
彼女自身が語ったように怪しいやつだと思った。チェスでなくてもならず者や盗賊の類かもしれないと、フードの顔を睨めつけた。
それが変わったのは何時だったかもうアランには思い出せない。
リィオが手酌で酒をつぐ姿を見ながら、アランは酒を口に運んだ。いつも言葉数は少ないが、今日は尚更だと窓から覗く満月を見上げる。
特別明るい月明かりがリィオの姿を照らし、まるで絵画か何かのように浮かび上がった。一拍おくと、二人はそろってまぶし気に目をひそめた。
「なんだか今日変だな」
リィオが薄く笑う。
その声色は何度も聞いたもので、きっといつもフードの下でこんな表情をしていたのだろう。
逡巡し、アランも薄く笑って答えた。
「そりゃ、いつもと同じって訳にはいかねぇだろ」
「そうか?・・・・そうか」
カランとリィオの手の中グラスが音を立てて、ゆっくりと机の上に置かれた。笑みを深くしアランを見上げるがアランはその真意を測りかね酒を煽る。
酔ってるのかとも思ったが、リィオのそんな姿は見たことがなかった。
「こんな風に誰かと長くいるのも、自分のことを話すのも・・・おっちゃん以来だ」
アランはその言葉に合点した。そう言えば育ての親に似ていると言っていたと思い出す。
「俺は代わりか」
思わず、そう言った感じでアランがこぼした。
「おっちゃんとアランは違う
アランは、アランだろう」
またリィオが薄く笑った。
アランがぎこちなくグラスを机に置き、それを見たリィオが首をかしげる。何時もだったらアランはリィオと同じくらい酒を飲み、話の途中でグラスを置いたりはしない。
アランは腕を組み目を閉じ大きく息を吐く。ぎぃと小さく床が軋む、リィオの気配が確かに揺れた。
「アラン?」
ひどく無防備に彼女がアランをのぞき込む。
開いたアランの目に飛び込んだのは自身を見上げるリィオの顔だった。無意識に伸ばした右手が絹糸の黒髪を梳き、さらさらとした感覚にアランは目を細める。
なぜ、抵抗しない?ナナシに対しては手を握られる事ですら避けていたのに。
「お前になら構わないと思った」
簡潔でストレートなリィオの言葉にアランはそのままリィオの頭を自分へと引き寄せた。
「いいのか?」
「してから、聞くのか」
問いかけにリィオが答える。ひどく穏やかに笑っていた。
彼女はアランの隣に腰掛けると乱れた髪をかきあげた。
「アランになら構わない」
引き寄せた体躯は鍛えてあるものの細く、リィオが女性なのだと思わせるのに十分なものだった。
「とりあえずよぅ」
「なんだ?」
「付き合うか」
アランの背に、手が添えられた。
「ああ」
(2016/06/08)